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産地マーケティングにおける特別栽培リンゴの活用方法

[要約]

高度な集団的管理を必要とする特別栽培リンゴは希少であるため、産地マーケティング戦略における継続的な取引の先導的商品として位置づけられ、品揃えを重視するチェーンスーパーとの互恵性の構築のもと、取引の拡大・深化に活用できる。

[キーワード]

リンゴ、特別栽培、産地マーケティング、互恵性

[担当]

東北農研・東北地域活性化研究チーム

[代表連絡先]

電話019-643-3492

[区分]

東北農業・基盤技術(経営)、共通基盤・経営

[分類]

技術・参考

[背景・ねらい]

病虫害の被害を受けやすいリンゴにおいて、産地が特別栽培に取り組む場合、極めて高度な集団的管理が求められる。そのため、特別栽培リンゴには希少性がある。しかし、卸売市場における即時的なセリ取引では評価されにくい問題がある。また、産地マーケティングでは、希少品のみならず上級品から下級品まである多様なリンゴをすべて売り切ることが重要な課題であることから、取引が特別栽培に限定されては、販売効果が減殺される。そこで産地マーケティングにおける特別栽培リンゴの有効な活用方法を、事例産地であるI農協の取り組みに基づき提示する。

[成果の内容・特徴]

  1. 特別栽培は産地の防除体制が評価されて初めて有効な商品となる。したがって、即時的な卸売市場でのセリ取引よりも、安心・安全に対する訴求度合いの高い小売企業との長期・継続的な相対的取引をチャネルとして選択することが重要である。
  2. 小売企業との長期・継続的な取引を実現するには、互恵的な関係を構築することが求められる。それには厳しい店舗間の生存競争の渦中におかれているチェーンスーパーに対し、競争に勝つための商材を提供する必要がある。事例産地では、ナショナルチェーンスーパーとの競争が厳しいリージョナルチェーンスーパーを取引先とし、競合他社とは取引を拒否している。そして競争戦略として品揃えを重視する取引先(F社、表1)に対して、互恵性の構築のために、希少な特別栽培をはじめとする多様な商品を企画提案している。これに対してF社では、「特別栽培に取り組んでいる産地」として、店頭およびカタログで紹介している。
  3. 産地側として利益を享受するためには、特別栽培を先導的商品として、取引を出荷するリンゴ全体に拡大することが不可欠である。特に、卸売市場のセリ取引では値崩れしやすい下級品の有利販売を模索することが極めて重要である。事例産地では、主要な取引相手であるF社との連携の下、小玉果、規格外リンゴなどの下級品の特別販売を実現するとともに、新たな下級品規格である「赤優」を設定している。関係の深化により、F社はリンゴ取引をI農協に集中させたため、取引額全体が拡大している(図1)。
  4. 下級品価格を下支えするF社との取引がI農協全体の平均リンゴ販売価格に与える影響は大きい。年次変動を除外したI農協産リンゴ売り渡し価格の指数の推移をみると、量販店との関係性を強化する戦略をとり、特別栽培に取り組み始めた時期から明らかに上昇している(図2)。以上のように、特別栽培を量販店との取引の拡大・深化のための先導的商品と位置づけることは有効な産地マーケティング戦略といえる。

[成果の活用面・留意点]

  1. 本成果は、農協等産地マーケティング主体が特別栽培を取り組むに当たり、販売戦略目標設定や部会員等の合意形成に活用できる。
  2. 本成果は競争条件が厳しく、品揃えを重視する小売企業と取引する場合に有効である。

[具体的データ]

[その他]

研究課題名
フェロモン利用等を基幹とした農薬を50 %削減するりんご栽培技術の開発
予算区分
交付金プロ(農薬削減リンゴ)
研究期間
2008 〜 2009 年度
研究担当者
長谷川啓哉、高梨祐明
発表論文等
長谷川、高梨(2009)農業市場研究、18(3):1-12