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地域内の組織的粗飼料生産による日本短角種繁殖中規模経営の維持

[要約]

地域内での組織的な粗飼料生産・供給は、日本短角種繁殖経営にとって、自給粗飼料生産の制約を緩和して飼養頭数の確保を容易にし、地域の林業や自家の複合部門への従事による所得確保を可能にすることで、中規模頭数飼養農家の維持存続に貢献する。

[キーワード]

日本短角種、繁殖経営、地域内粗飼料自給、所得確保

[担当]

東北農研・東北飼料イネ研究チーム

[代表連絡先]

電話019-643-3481

[区分]

東北農業・基盤技術(経営)

[分類]

技術及び行政・参考

[背景・ねらい]

日本短角種の子牛価格は、BSE問題を背景とした国産牛肉の評価の高まりや健康志向による赤肉の再評価などにより、1991 年の牛肉輸入自由化以降続いていた低価格傾向から回復してきている。しかし、繁殖雌牛飼養頭数は毎年数%を上回って減少しており、安定的な生産体制確立に向けた繁殖農家の維持・継続が求められている。ここでは、冬期舎飼い期間中の粗飼料調達の観点から、短角繁殖牛飼養の中心地の一つである岩手県A産地K地区およびO地区の牧野組合において粗飼料調達の実態と意向を調査し、短角繁殖経営の維持存続条件を示す。

[成果の内容・特徴]

  1. K地区牧野組合では放牧事業に加えて飼料生産事業を行い組合員に安価に供給している(図1)。飼養頭数規模にかかわらず、半数の農家で経営主年齢が50 歳未満かまたは後継者が就農し、担い手がある程度確保されている。自給粗飼料に加えて牧野組合からの牧草購入により、自給飼料規模を上回る頭数を実現している。また、自家飼料生産と労働投入時期が競合する部門(他畜種の導入や繁殖肥育一貫経営、複合部門の導入、および地域の主な農外就業部門としての林業)への就業を容易にし、短角繁殖部門のみの場合の所得を補うことで、結果として中規模層が多く形成されている(図2)。
  2. 飼養中止農家の中止理由と経緯をみると、K地区では、飼料を購入しながら病気等で飼養が困難になるまで継続している。K地区と隣接し、同様の就業機会条件にあるが、組合有牧野が急傾斜のため牧野組合としては飼料生産を行っていないO地区では、高齢化に伴い飼料作面積と飼養頭数を計画的に縮小・中止している()。
  3. その結果、O地区では小規模層の減少と大規模層の増加とともに中規模層が欠け、総戸数は最近10 年弱の間に半減しているのに対して、K地区は減少率が低く、とくに中規模層(6〜 24 頭飼養)が多数残り総戸数が一定程度維持されている(図3)。
  4. 以上から、地域的に飼料生産を行い安価に供給することによって、自給飼料の制約を受けずに飼養頭数の維持や増加による短角部門の拡大が可能となること、他の部門への従事により追加的所得確保が可能となることを通じて、短角繁殖牛飼養農家を維持存続させることができる。

[成果の活用面・留意点]

  1. 中規模層を多く確保することは、日本短角種の飼養が行われてきたような兼業機会に相対的に乏しい地域において、多くの若年人口を確保し地域社会を維持するために重要である。
  2. 所得確保のためには、夏期の複合部門や林業など短角繁殖牛飼養と両立する就業機会の存在が前提となるため、これら就業部門の振興が求められる。

[具体的データ]

[その他]

研究課題名
公共草地を基軸とした日本短角種等の放牧型牛肉生産と地域活性化方策
予算区分
基盤
研究期間
2007 〜 2009 年度
研究担当者
藤森英樹