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発芽小麦種子プロテアーゼによる小麦グリアジン・グルテニンのエピトープ分解
[要約]
発芽小麦種子プロテアーゼは、小麦アレルゲンタンパク質であるグリアジンやグルテニンの、アトピー性皮膚炎に関わるエピトープ(ヒトIgE 抗体が結合するアミノ酸配列)を分解できる。
[キーワード]
小麦アレルギー、発芽小麦、プロテアーゼ、エピトープ分解
[担当]
東北農研・パン用小麦研究東北サブチーム
[代表連絡先]
電話019-643-3414
[区分]
東北農業・流通加工
[分類]
研究・参考
[背景・ねらい]
日本における食品アレルギー患者の約10%が小麦アレルギーであるため、その発症リスク低減が求められている。小麦アレルゲンタンパク質であるグリアジンやグルテニンが、発芽小麦種子プロテアーゼによって分解されることは知られているが、その分解パターンやアレルギー反応性の低下の程度は不明である。そこで、発芽小麦の有効利用を目的として、グリアジンやグルテニンのエピトープに対する、発芽小麦プロテアーゼによる分解性を、合成エピトープペプチドを基質に用い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やマススペクトル(MS)分析で明らかにする。
[成果の内容・特徴]
- 25度Cで4 日間発芽させた小麦種子から、DEAE イオン交換カラムにより粗精製されるプロテアーゼは、システインプロテアーゼ(Z-F-R-MCA分解)活性とセリンプロテアーゼ(Z-G-GR-MCA 分解)活性を両方含み、アトピー性皮膚炎に関わるグリアジンのエピトープであるPQQPFとQQPFP の合成ペプチドをいずれも90%以上分解する(表1)。
- 発芽小麦プロテアーゼは、PQQPFとQQPFP が重なったPQQPFP も80%分解可能で(表1)、PQQPFとQQPFP の副生も少ない(図1)。
- アトピー性皮膚炎に関わるグルテニンのエピトープQQQPP は比較的分解され難いが、そのエピトープを反復して含むペプチドCSQQQQPPFSQQQPPF(Glu-16)は分解され易い(表1)。Glu-16 酵素分解物のMS およびMS/MS 分析により、エピトープ活性がない部分分解ペプチド(QQPP、QQPPF)が同定され、含エピトープペプチドの分解過程を確認できる(図2)。
- 運動誘発性アナフィラキシーに関わるω-5 グリアジンのエピトープQQFPQQQ およびHMWグルテニンのエピトープQQPGQGQQも、発芽小麦プロテアーゼによって完全分解できるが、もう一つのω-5 グリアジンのエピトープであるQQIPQQQ は比較的分解され難い(表2)。
[成果の活用面・留意点]
- グリアジンやグルテニンが分解されると、グルテンが形成されないため、パンや麺の製造は難しいが、デンプンが分解されていなければ、クッキー等の菓子類の製造は可能であり、本成果は、発芽小麦を用いた低アレルゲン化菓子類の開発に活用できる。
- 合成エピトープペプチドと各種プロテアーゼの反応液をHPLC やMS で分析する方法は、他のアレルゲンタンパク質の分解解析にも応用できる。
[具体的データ]
[その他]
- 研究課題名
- 実需者ニーズに対応したパン・中華めん用等小麦品種の育成と加工・利用技術の開発
- 予算区分
- 基盤、重点研究強化
- 研究期間
- 2006〜2009年度
- 研究担当者
- 老田 茂、林 高見、亀山眞由美
- 発表論文等
- Oita S. et al. (2009) Food Sci. Technol. Res. 15(6):639-644