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地理的要因を基にした水田雑草多発リスクの評価

[要約]

主要水田雑草種の多発リスクは標高、主要河川からの距離、1平方キロメートルメッシュ内の最大傾斜度、土壌分類といった地理的要因により変化する。これら地理的要因を説明変数としたロジステック回帰モデルによりイヌビエ・クログワイの多発リスクを評価できる。

[キーワード]

水田雑草、多発リスク、地理的要因、ロジスティック回帰モデル、GIS

[担当]

宮城県古川農業試験場・水田利用部

[代表連絡先]

電話0229-26-5106

[区分]

東北農業・作物(稲栽培)

[分類]

研究成果情報

[背景・ねらい]

近年、イヌビエ、オモダカ、イヌホタルイそしてクログワイといった特定雑草種が目立つ地域が多く、広域的な防除対策立案のためにも、地域毎の問題雑草種の発生傾向を把握することが重要となっている。そこで、水田雑草種の潜在的多発要因と考えられる圃場の立地条件(地理的要因)の影響を明らかにすることを目的として、宮城県内全域を対象として実施した水田雑草発生状況調査における草種別の分布特性を既存の地理情報システム(GIS)のデータを基に解析する。さらに、地理的要因の影響をモデル化し、任意地点における特定雑草種の多発リスクを予測・評価することが可能か検討する。

[成果の内容・特徴]

  1. 各水田雑草種の多発圃場の分布は、標高が低い地域に多い低地型(イヌビエ・ウキヤガラ)、低地でかつ河川に近い河口型(ミズアオイ・コウキヤガラ)、低地から高地まで河川近くに分布する河川近傍型(オモダカ)等、その標高と主要河川からの距離により数種のパターンに分類することができる(図1)。
  2. 特定草種の多発しやすさ(多発リスク)をオッズ比として示すと、対象圃場が含まれる1平方キロメートルメッシュ内の最大傾斜度が大きい傾斜地ほどオモダカやクログワイの多発リスクが高まり、泥炭土では両草種で灰色低地土よりも多発リスクが低い等、標高・主要河川からの距離以外の地理的要因によっても草種別多発リスクは有意に変化する(表1)。
  3. 上記の地理的要因に、直近の多発圃場からの距離を説明変数X5として加えたロジスティック回帰モデルにより、任意の圃区地点毎に草種別の多発確率を算出することができ、雑草多発のリスクマップを描画できる(図2;直近の多発圃場からの距離X5 の偏回帰係数はイヌビエb5=-0.45**,クログワイb5=-0.72**で、多発圃場に近いほどリスクが高いことを示す)。
  4. イヌビエ、クログワイについては、上記のロジステック回帰モデルにより任意地点の多発リスクを評価することができる(図3)。一方、ホタルイ、オモダカについては、地理的要因のみで試算した多発リスクの予測精度は低い(図3)。

[成果の活用面・留意点]

  1. 解析に用いた各地理情報はGISデータベースとして公開されている(図表の脚注参照)。
  2. 2007 年〜2009 年にかけて宮城県内の各農業改良普及センターから報告のあった、特定の雑草種の多発により収量被害の予測された水稲作付圃場、および、各報告地点の巡回経路上で発見された特定雑草種の多発圃場(合計413 地点)について、発生量指数(草丈cm×株数/平方メートル×面積割合)が0.1 以上となる草種のデータをリスク評価の対象として解析に用いた。
  3. 本成果において評価指標とした雑草多発リスクとは、雑草多発圃場における特定草種の出現確率であり、雑草多発圃場自体の出現確率は考慮していない。
  4. 雑草多発の直接的要因としては圃場の管理履歴の影響が大きいと考えられ、これがイヌホタルイ、オモダカで地理的要因のみで試算した予測精度が低い原因と思われる。この管理要因を加えたリスク評価法を今後検討する予定である。

[具体的データ]

[その他]

研究課題名
環境保全型水稲栽培の推進に向けたIWM の実践支援
予算区分
県単
研究期間
2009-2011 年度
研究担当者
大川茂範(宮城県古川農業試験場)