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海水流入農地土壌における塩化物イオン濃度の簡易分析
[要約]
海水流入農地土壌においてEC 値から塩化物イオン濃度を推定可能であるが,除塩
開始後は相関が低下する。塩分濃度検知管,カンタブ,RQ フレックスプラスを用いた塩
化物イオン濃度の簡易分析値は精密分析値と相関が高く実測が可能である。
[キーワード]
海水流入土壌,除塩,塩化物イオン,推定式,簡易分析
[担当]
宮城県農業・園芸総合研究所・園芸環境部
[代表連絡先]
電話022-383-8133
[区分]
東北農業・生産環境(土壌肥料)
[分類]
普及成果情報
[背景・ねらい]
海水流入農地土壌における除塩指標は塩化物イオン濃度で示されており,水田では0.1%,畑地では0.05 %とされている(農地の除塩マニュアル:農水省2011)。従来法による塩化物イオンの分析は高額な装置が必要で煩雑であるため,現場で簡易に測定可能な手法を開発する。
[成果の内容・特徴]
- 海水流入農地において,海水流入時または除塩前の土壌中のEC 値と塩化物イオン濃度の相関は高く,推定が可能である。推定式は「塩化物イオン濃度(%)」= 0.174 × EC(dS/m)− 0.041 となり,スクリーニングを主目的として使用する(図1−A)。一方,除塩の進行に伴い相関が低下するため,除塩開始後については実測とする(図1−B)。
- 塩分濃度検知管,カンタブ,RQ フレックスプラスを用いた海水流入農地土壌中の塩化物イオン濃度の簡易分析値はイオンクロマトグラフ値と相関が高く実測が可能である(図2)。
- 各簡易分析法の概要を図3に示す。手法は簡易で未経験者でも短時間で測定が可能である。分析にはEC 測定時の振とう液(風乾土:水=1:5)を用いるが,10 秒程度の手振とうでも十分な精度の測定値が得られる。なお,懸濁状態では目詰まりの発生や発色に影響するため,静置後の上澄液か濾液を用いる。RQ フレックスプラスは測定レンジを超えた際には希釈が必要である。測定値の土壌中%への換算については,(1)塩分濃度検知管:読み値直読,(2)カンタブ:読み値(換算表)×5,(3) RQ フレックスプラス:読み値×希釈倍率× 0.0005 となる。
[成果の活用面・留意点]
- 普及対象:主に生産者支援組織(普及センター,JA 等)
- 普及予定地域:主に津波被災した沿岸地域
- その他:
- 本試験では2011 年5月〜 12 月に採取した津波被災農地土壌を供試している。土壌タイプは概ね砂壌土〜壌土に分類される。
- 除塩は主に露地畑における自然降雨と主に施設畑における人為的なかん水作業の両方を含む。除塩の進行により相関が低下する要因は,塩化物イオンと比較し水溶性ナトリウムイオンの減少が遅いことと作付開始による施肥の影響である。
- 器材の商品名と価格は下記のとおり。検知管やカンタブの導入が汎用的で低コストである。RQ フレックスプラスは既に本体を所有している場合の利用を想定している。
- 塩分濃度検知管: 商品名「北川式土壌塩分濃度検知管」(光明理化学工業製),価格2,200 円(10 本)。
- 生コンクリート中の塩分量測定計:商品名「カンタブ」(太平洋マテリアル製),価格:10,500 円(3本組12 パック)。
- RQ フレックスプラスおよび塩化物イオンテスト(メルク製),本体価格122,300 円,キット価格13,100 円(100 回分)。
[具体的データ]
(宮城県農業・園芸総合研究所)
[その他]
- 研究課題名
- 震災復興プロジェクト
- 予算区分
- 国庫(復興交付金)
- 研究期間
- 2011 年度
- 研究担当者
- 稲生栄子,玉手英行,上山啓一