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土壌塩分濃度が大豆「タンレイ」の生育収量に及ぼす影響

[要約]

大豆「タンレイ」の発芽率、生育量および収量は播種前土壌の塩化物イオン濃度0.021%、交換性ナトリウム含量312 mgNa2O/kg 乾土程度以下であれば、海水無添加と比較して有意に減少しない。

[キーワード]

海水、土壌塩化物イオン濃度、大豆、タンレイ、発芽率、収量

[担当]

宮城県古川農業試験場・土壌肥料部

[代表連絡先]

電話0229-26-5107

[区分]

東北農業・基盤技術(土壌肥料)

[分類]

研究成果情報

[背景・ねらい]

東日本大震災により、宮城県の太平洋沿岸地帯の農業は津波によって甚大な被害を受け、早急な農業復興対策の提示・実施が必要となっている。宮城県では大豆が水田における主要な転作作物として栽培されているが、大豆生育に対して塩分が及ぼす影響をほ場レベルで実測したデータはほとんど無い。本試験では海水由来塩分濃度の違いが大豆の生育に及ぼす影響を明らかにする。

[成果の内容・特徴]

  1. ポット試験において、大豆の発芽率は海水7.5L/平方メートル添加区(播種前塩化物イオン濃度0.078%,交換性ナトリウム含量950mgNa2O/kg 乾土)以下では海水無添加区と同等である。一方、海水12.5L/平方メートル添加区(播種前塩化物イオン濃度0.113%,交換性ナトリウム含量1231mgNa2O/kg 乾土)程度では海水無添加の7割程度になり、芽揃いが悪い。また、発芽後にも一部で縮葉がみられる(表1)。
  2. ほ場試験において、播種後2週間の降雨(99.5mm/2週間)により土壌塩化物イオン濃度および交換性ナトリウム含量は低下する(図1)。
  3. 海水添加区(海水2.5 〜 12.5L/平方メートル添加区)の生育期間中の主茎長および分枝数および主茎節数は、海水無添加区に比べ有意に低くならない(表2)。
  4. 海水7.5L/平方メートル 添加区( 播種前塩化物イオン濃度0.048%、交換性ナトリウム含量551mgNa2O/kg)の収量は海水無添加区に比べ有意に少ない。海水12.5L/平方メートル添加区(播種前塩化物イオン濃度0.072%、交換性ナトリウム含量679mgNa2O/kg)の収量はばらつきが大きいため有意ではないが海水無添加に比べ少ない傾向がみられる。一方、海水2.5L/平方メートル添加区(播種前塩化物イオン濃度0.021%、交換性ナトリウム含量312mgNa2O/kg)の収量は海水無添加区と同等であり、かつ有意差はみられない。(表3)。
  5. 海水7.5L/平方メートル添加区は無効莢数が海水無添加に比べ有意に多く、百粒重が小さい傾向が見られる。海水12.5L/平方メートル添加区の莢数は有意ではないが海水無添加に比べ少ない傾向がみられる。このことから、塩分濃度が後期生育に影響を及ぼしていると推察される(表3)。

[成果の活用面・留意点]

  1. 本試験は古川農業試験場ほ場内で、5a ほ場に石巻で採取した海水を散布し大豆品種「タンレイ」を播種して行った。
  2. ほ場の土壌タイプは細粒灰色低地土である。なお,本ほ場には本暗渠、弾丸暗渠、明渠を設置しており、水はけは良好である。
  3. 播種日は6月15日、開花期は8月7日、収穫日は11月5日である。
  4. ポット試験では海水をほ場に散布後耕耘し土壌塩分濃度を調製した後の土壌の一部を排水口のあるポットに充填した。塩分流亡を抑制するため、ポットの土壌表面は黒ポ リフィルムで被覆し、一部に穴を開け、各区6ポットに10 粒/ポット播種した。
  5. 交換性ナトリウム含量は風乾土をpH7.0 の1N 酢酸アンモニウムで抽出後に炎光光度計で測定したもの。

[具体的データ]

(宮城県古川農業試験場)

[その他]

研究課題名
津波被災水田の実態調査と除塩法・栽培管理技術の確立
予算区分
国庫(復興交付金)
研究期間
2011 〜 2012 年度
研究担当者
阿部倫則、佐藤一良