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温暖化によって東北地方の中生ダイズ品種は増収する

[要約]

生育期間平均気温が20〜26度Cの範囲では、温度上昇に伴い、東北地方における中生ダイズ品種の「リュウホウ」および「エンレイ」では、開花期間が延長し、稔実莢数や子実数が増加するため、収量が増加するが、早生品種の「ユキホマレ」では変化しない。

[キーワード]

温暖化、発育、収量、早晩性、ダイズ

[担当]

気候変動対応・気象災害リスク低減

[代表連絡先]

電話029-838-7389

[研究所名]

東北農業研究センター・生産環境研究領域

[分類]

研究成果情報

[背景・ねらい]

近年、温暖化が原因と考えられるダイズの減収が全国的に報告されており、その対応策が求められている。東北地方の現在の夏季(6-9月)平均気温はダイズの収量形成の最適温度(23〜25度C)以下であるため、温暖化がダイズ作に正の影響を及ぼす可能性がある。過去の研究では、日長反応性が小さい早生品種では温度上昇によって生育期間が短縮し栄養生長量が減少し減収するが、日長反応性が大きい中晩生品種ではその減収を回避できると予測されている。そこで、東北地方におけるダイズ栽培の温暖化適応のための基礎情報を得るため、早晩性が異なるダイズ3品種を慣行期(6月上旬)に播種し、発育や収量の温度上昇に対する応答を比較する。

[成果の内容・特徴]

  1. 20〜26度Cの範囲での温度上昇により、東北地方における中生品種(生態型IIb)の「リュウホウ」および「エンレイ」では稔実莢数、子実数が増加し、収量が増加するが、早生品種(生態型Ia)の「ユキホマレ」では変化が無い(図1)。中生品種の収量増加の要因は以下のように解析される。
  2. 温度上昇により播種からR1(開花始)までの日数は3品種共通して短縮する(データ省略)。R1からR3(着莢始)までの日数や開花期間(R1から開花終)は、「リュウホウ」、「エンレイ」では延長するが、「ユキホマレ」では変化が無い(図2左、中)。開花数も同様な傾向を示す(図2右)。
  3. 温度上昇に伴い、最大繁茂期の葉面積は「リュウホウ」、「エンレイ」では増加するが、「ユキホマレ」では変化が無い(図3左)。開花期の個葉光合成速度は、3品種いずれにおいても、低温区より高温区で高くなる(図3右)。
  4. 開花期以降の発育に日長が作用することは知られているが、このことが中生品種で見られた開花期間の延長に関与したと考えられる。すなわち、長日下では発育が進みにくく、結果的に開花期間が延長し、増収したものと考えられる。

[成果の活用面・留意点]

  1. 本成果は、今世紀末に東北地方の気象官署で予測される温暖化条件(例えば、気候モデルMIROC-HのA1Bシナリオでは夏季平均気温24.8〜26.8度Cを予測)では、中生品種を慣行期に播種した場合に増収する可能性を示すものであり、将来環境での品種や作期の策定に有益である。
  2. 本成果は、温度勾配チャンバー(細長い温室の妻面に換気ファンを設置し、反対側妻面の入気口から取り入れた外気を日射や暖房機より徐々に昇温させ、内部に連続的な気温勾配を得る装置)内の異なる温度条件でのポット試験で得られた結果である為、圃場条件での検証が必要である。また、岩手県盛岡市での慣行期において得られた結果であり、温度、日長、作期が大きく異なる地点での検証が必要である。

[具体的データ]

(熊谷悦史)

[その他]

中課題名
気象災害リスク低減に向けた栽培管理支援システムの構築
中課題番号
210a3
予算区分
交付金、委託プロ(気候変動)
研究期間
2011〜2014年度
研究担当者
熊谷悦史、鮫島良次
発表論文等
Kumagai E. and Sameshima R. (2014) Agric. For. Meteorol. 198-199: 265-272.