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オキシトシン負荷により分娩後の黒毛和種雌牛の子宮機能回復状況を予測する

[要約]

分娩後40 日にオキシトシン負荷試験を行い、負荷後0〜90 分までの血中プロスタグランジン代謝産物の推移を調べることで、分娩後の黒毛和種雌牛における子宮機能の回復状況を予測できる。

[キーワード]

オキシトシン負荷、プロスタグランジン代謝産物、子宮修復、黒毛和種

[担当]

農研機構東北農業研究センター・畜産飼料作研究領域

[代表連絡先]

電話019-643-3433

[区分]

東北農業・畜産飼料作

[分類]

研究成果情報

[背景・ねらい]

2015年3月に新たな家畜改良増殖目標が策定され、乳・肉用牛ともに分娩間隔の短縮が挙げられている。特に、肉用牛においては1年1産(12.5 ヶ月)の目標が策定されており、目標達成のためには繁殖雌牛の効率的利用を促すことが重要となる。そのためには分娩後早期に繁殖機能を回復させ、機能回復したか否かを評価し、早期に繁殖技術を適用させることが必須となる。

下垂体後葉から分泌されるオキシトシン(OT)は、牛卵巣および子宮機能の調節因子であり、生体への負荷により主に子宮から一過性なプロスタグランジン分泌促進作用(OT 感受性)を有する。このOT 感受性を指標として受胎性評価技術を開発し、感受性の高い牛群はその後の受胎性も高いことを明らかにしている(2010 年度研究成果情報「オキシトシン負荷試験を利用した黒毛和種雌牛の受胎性評価」)。そこで本研究では、牛子宮の生理的作用であるOT 感受性を利用し、分娩後の黒毛和種における子宮機能の回復状況を予測する。

[成果の内容・特徴]

  1. 分娩後の子宮修復過程において、直腸検査および超音波画像診断装置を用い、妊角・非妊角直径が同程度になる形態的な子宮修復時期は30.8±1.5 日、子宮内の清浄化を反映する悪露の消失時期は36.0±2.4 日、初回排卵時期は42.3±3.4 日となり、自然哺乳下の黒毛和種雌牛では概ね分娩後40 日には子宮修復は完了する(表1)。
  2. 分娩後の子宮修復の経過に伴い、OT 負荷後のプロスタグランジン代謝産物(PGFM)濃度の推移パターンは分娩後40 日まで日数依存的に低下する(図2)。図1に示すとおり、分娩後10、20、30 および40 日のPGFM 濃度は、図2に示すOT 負荷後0分の濃度を反映しており、分娩後の子宮修復過程に伴う機能回復の変化が推察できる。
  3. 分娩後30 および40 日においてOT 負荷後0分の濃度を100%とし15〜90 分の濃度を百分率で表すことで、分娩後40 日のPGFM 産生割合は30 日と比較して有意(P<0.05)に高く推移する。また、分娩後40 日においてOT 負荷後15 分でPGFM 産生割合は有意(P<0.01)に高くなることから、子宮が有するOT 感受性が回復している(図3)。
  4. 分娩後の形態的な子宮修復状況およびOT 感受性を利用することで子宮修復に伴う機能回復が予測できる。

[成果の活用面・留意点]

  1. 従来の繁殖検査と併用することで、雌性生殖器の総合的な評価ができる。
  2. 投薬を伴うため、本技術は獣医師あるいは試験研究機関が対象となる。
  3. 自然哺乳下の黒毛和種の結果であるため、早期離乳や他品種は検討が必要である。
  4. OT は動物用オキシトシン注射液DSP(ナガセ医薬品株式会社)100 単位/頭を投与。
  5. PGFM 濃度の測定には市販のELISA キット(Cayman 社)を使用。

[具体的データ]

(伊賀浩輔)

[その他]

研究課題名
受精・妊娠機構の解明と調節による雌牛の繁殖性向上技術の開発
予算区分
交付金
研究期間
2011〜2015 年度
研究担当者
伊賀浩輔
発表論文等
1)伊賀(2013)日胚移誌、35(3):117-122
2)Iga K. et al. (2015) JARQ 61 (4):297-303