研究所トップ研究成果情報平成27年度

被覆カリ肥料の苗箱施用は玄米中放射性セシウム濃度を低減できる

[要約]

被覆カリ肥料の苗箱施用は、水稲移植20 日後までの土壌溶液中カリウム(K)イオン濃度を維持し、茎葉中放射性セシウム(Cs-137) 濃度の上昇を抑えるとともに、玄米中Cs-137 濃度を低減できる。

[キーワード]

AgrocoteKCl、土壌溶液中K イオン濃度、Cs-137 濃度

[担当]

福島農総セ・生産環境部

[代表連絡先]

電話024-958-1718

[区分]

東北農業・生産環境(土壌肥料)

[分類]

研究成果情報

[背景・ねらい]

福島県では玄米中の放射性セシウム吸収を抑制するため、収穫後の土壌中交換性カリ含量が25 mg/100g 乾土以上になるよう通常施肥に上乗せしたカリ施用が行われている。しかし、本田への全層施肥による上乗せカリ施用は、労力がかかることから、省力的なカリ施用法の開発が求められている。そこで、過去に暫定規制値(500 Bq/kg)を超過した試験水田において、被覆カリ肥料の苗箱施用による玄米中放射性セシウム吸収抑制効果を検証する。

[成果の内容・特徴]

  1. 移植直前の苗箱表面に被覆カリ肥料 (以後AgrocoteKCl と示す) (N,P2O5,K2O=0-0-56) を500 g(K2O,5.6 kg/10a, 苗箱20 箱/10a 相当)施用し、本田に移植した。AgrocoteKClの温度別溶出率を図1に示す。
  2. 土壌溶液の採取方法は、以下に示すとおりである。
    1. DAIKI 社製ミズトール(DIK-8393 ポット用、吸引用シリンジのセット)を準備する。
    2. 水稲の株元にミズトールの脇から田面水が入らないように固定する。
    3. 固定したミズトールを水田に沈める。このとき素焼きの中心部分が深さ5 cm になるようにミズトールに印をつけておく。
    4. 設置後、5 分程度時間を置き、吸引用シリンジで土壌溶液を10-20 mL 程度採取する。
  3. 苗箱K 施用区では、移植20 日後に土壌溶液中K イオン濃度が2 mg/L に減少し、茎葉中Cs-137 濃度が上昇し始める(図2)。しかし、移植時から土壌溶液中K イオン濃度が低い無施用区と比べ、茎葉中Cs-137 濃度の上昇幅は小さい。
  4. 稲体の乾物重が増加する移植35 日後から地上部Cs-137 吸収量が増加する。苗箱K 施用区は無施用区と比べ、地上部Cs-137 吸収量が少なく、玄米中Cs-137 濃度は無施用区比44%に低減できる(図3)。

[成果の活用面・留意点]

  1. 放射性セシウムの吸収抑制対策の手法が多様化できる。
  2. 試験地の土壌は多湿黒ボク土である。土壌中Cs-137 濃度は3400-5700 Bq/kg で、2011 年の玄米から暫定規制値(500 Bq/kg)を超過する放射性セシウムが検出された試験ほ場である。
  3. 塩化カリを苗箱の表面に施用した場合、水稲苗が肥料焼けする可能性があるため、塩化カリをダイズ抽出物とヒマシ油を利用した被覆材でコーティングしたAgrocoteKCl を用いた。苗箱に塩化カリを同様に施用した場合の放射性セシウム吸収抑制効果は未確認である。
  4. .収穫後の交換性カリ含量はK 無施用区、苗箱K 施用区でそれぞれ3.0±0.3, 3.1±0.2mg/100g 乾土であった。

[具体的データ]

(福島県)

[その他]

研究課題名
高機能バイオ肥料を利用した水稲の増収減肥栽培技術の実用化(農食事業)、
カリ施用からの卒業に向けた土壌リスク評価技術の開発(カリ適性プロ)
予算区分
国庫
研究期間
2015 年
研究担当者
齋藤隆、横山正(東京農工大)、見城貴志、石川伸二(朝日工業(株))、太田健(東北農研)、牧野知之(農環研)