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オリエンタル系ユリにおける生育段階ごとの光量と光合成、乾物蓄積との関係
[要約]
オリエンタル系ユリの個体あたり光合成速度は、展葉期では低く、発蕾期、開花期に向かって高くなる。光量の違いが開花期における乾物蓄積に与える影響は、発蕾期以前で小さく、発蕾期以後で大きくなる。
[キーワード]
オリエンタル系ユリ、光量、光合成、乾物蓄積、切り花品質
[担当]
農研機構東北農業研究センター・畑作園芸研究領域
[代表連絡先]
電話019-643-3433
[区分]
東北農業・野菜花き(野菜)
[分類]
研究成果情報
[背景・ねらい]
オリエンタル系ユリは、日本のユリ切り花生産における重要系統であるにも関わらず、栽培環境と生育および切り花品質との関係についての基礎情報が乏しく、性質が異なると考えられるテッポウユリ等の情報に多くを頼っているのが現状である。本研究では、光合成による乾物蓄積が切り花品質を決定する重要な要因と考え、オリエンタル系ユリ主要品種「シベリア」の生育段階ごとに、光量と光合成との関係を評価するとともに、遮光により異なる光量条件を設定して栽培し、乾物蓄積と切り花品質に及ぼす影響について解明する。
[成果の内容・特徴]
- 個体あたり光合成速度は光合成有効放射束が500 μmol・photons・m-2・s-1 以下の領域では光量の増加に伴って急速に増加し、それ以上の領域では増加が緩慢となる(図1)。
- 個体あたり光合成速度は、展葉期(定植後26 日)ではきわめて低いが、発蕾期(定植後47 日)に向かって急速に高まり、開花期(定植後90 日)ではさらに高まる(図1A)。
- 葉面積あたり速度は、展葉期にもかなり高い値を示し、発蕾期に最高となり、開花期にはやや低下する(図1B)ことから、生育の進行に伴う個体あたり光合成の増加は同時に進行する葉面積の拡大による。
- 定植時から発蕾期(定植後30 日)まで0%(無遮光)、40%および60%の3 段階の遮光条件下で栽培しても、発蕾期における全体および部位ごとの新鮮重(表1)および乾物重(図2A)にはほとんど影響しない。一方、茎長は60%遮光により長くなる(表1)。
- 発蕾期から開花期(定植後63 日における遮光条件を0%、40%、60%として栽培すると、定植時から発蕾期の遮光条件に関わらず、遮光率が低いほど乾物蓄積量は大きくなる(図2B)。
- 2、4および5より、光量が開花期における乾物蓄積に与える影響は、個体あたり光合成速度の高低と強く関連しており、発蕾期以前で小さく、発蕾期以後で大きくなる。
- 定植から発蕾期に60%の遮光を行ったものは、開花期における茎長が長くなる(表1)。さらに発蕾期以後の遮光条件を0%とすると、葉および茎の乾物率が高くなり、堅く締まった切り花となる(表1)ことから、この組合せが切り花品質面から優れている。
[成果の活用面・留意点]
- オリエンタル系以外の系統のユリでは別途検討を要する。
- 切り花品質向上のための、遮光等による光環境調節技術に活用される。
- 光合成の評価は、低温貯蔵りん茎を2010 年3 月24 日に直径25cm のワグネルポットにプレルーティング処理を行わず定植し、最低15℃のハウスで栽培した植物を用いた。
- 光合成測定の光源には3波長型蛍光灯を用いた。
- 遮光条件の影響評価は、低温貯蔵りん茎を2010 年4 月21 日より9℃でプレルーティング処理を行った後に、5 月10 日に直径21cm ポットに定植し、昼温25℃(6:00〜18:00)および夜温20℃(18:00〜6:00)一定とした屋外型恒温装置で行った。
[具体的データ]
( 稲本勝彦)
[その他]
- 研究課題名
- 生育開花機構の解明によるキク等の主要花きの効率的計画生産技術の開発
- 予算区分
- 交付金、競争的資金(科研費)
- 研究期間
- 2006〜2015 年度
- 研究担当者
- 稲本勝彦、山崎博子、長菅香織、矢野孝喜
- 発表論文等
- Inamoto K. et al. (2015) J. Hort. Sci. Biotech. 90(3):259-266