研究活動報告詳細

地域に根ざした酒米になあれ-新品種「吟のさと」に祈りを込めて-

情報公開日:2008年10月 2日 (木曜日)

黄金色の稲穂が一面に広がり、新米の収穫が始まる頃は、美味しい旬の味覚とともに、まろやかで薫り高い日本酒『冷やおろし』が楽しめる季節です。

九州では育てにくかった「酒造好適米」

吟醸酒などの原料米として使用される「山田錦」は、日本酒造りに適したお米の最高峰とされる品種ですが、他品種に比べて草丈が長く倒れやすい、いもち病などの病気に弱い、収量が低いため価格が高いなどの難点があり、特に台風が多い九州では栽培しにくい品種です。

九州に適した「酒造好適米」を目指して

これらの欠点を克服すべく、当センターで育成された酒米品種「吟のさと」は、品質が「山田錦」並みに優れ、心白(お米の中心部にある白濁した部分)の発現率が高い、草丈が短いため倒れにくく栽培しやすい、収量性が高く安定しているなど期待の大きい新品種です。また、吟醸酒に向く酒米として2007年からJAふくおか八女管内で作付けが行われ、2008年の作付は約3.5ha、筑後地域の酒造メーカー6社で試験醸造が予定されるなど、北部九州での普及が見込まれています。

今年の「吟のさと」の生育は?

去る10月2日に行われたキャラバンでは、現地の生育状況を視察するとともに、栽培上の問題点はないか、また、使う側として酒造メーカーはどのような要望を持っているか、等々を知るため、一足早く試験醸造を行っている福岡県八女市の蔵元『喜多屋』を訪れました。当日は生産者、JAふくおか八女、八女地域農業改良普及センターのほか、地元のテレビ局の取材クルーも同行し、総勢約30名の参加となりました。

JAふくおか八女での生育経過説明後、八女市内の栽培水田2ヶ所を見学しましたが、今年は台風の襲来がなかったこともあり、倒伏は全く見られませんでした。また、ウンカの被害も少なく、稲はとてもきれいに熟しつつあり、今年はいいお米ができそうだ、と期待がふくらみました。

地元に役立つ「酒米」に育てるために

場所を移して行われた意見交換会では、まず、当センターの坂井稲育種ユニット長が品種特性のプレゼンテーションを行い、喜多屋の安達常務からこれまでの取り組みと使う側としての考え方の説明があった後、参加者による意見交換が行われました。

なかでも、喜多屋木下社長からの「酒米として好条件が揃った「吟のさと」を地元で作ることができれば、安くて品質の良い原料を地元で確保でき、地産地消や地元の利益にもなる。ただ、1社が品種を独占するようなやり方では地域全体の活性化にはつながらない。地域の酒造メーカーがそれぞれの個性を活かしたお酒づくりをすることが重要だ」という言葉が印象に残りました。

新品種「吟のさと」が地域全体の絆づくりの起爆剤になりつつあることを感じながら、来春の新酒の季節が待ち遠しくなったキャラバンは終了しました。

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高温障害にも負けない期待の新品種「吟のさ
と」の栽培圃場見学。生育状況も良く、
あとは収穫を待つばかりです。

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地元テレビ局から取材を受ける坂井稲育種ユニ
ット長。普段から取材依頼も多く、わかりやすく
簡潔に説明しています。

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店先の日本酒ラベルに「吟のさと」の文字が並ぶ日も近い!

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喜多屋会議室で行われたプレゼンテーション。
「吟のさと」育成の経緯、品種の特性などに
ついて説明がありました。

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「好条件の酒米品種を1社で独占するようなや
り方では、地域全体の活性化には繋がらない」
と語る喜多屋の木下社長(写真中央)。熱心な
様子に参加者も惹きつけられます。

法人番号 7050005005207