研究活動報告詳細

水、土、作物そして人を育む湛水営農の展開 -白川中流域でキャラバンを実施-

情報公開日:2007年12月 6日 (木曜日)

熊本都市圏約100万人の上水道は全て地下水によってまかなわれています。この地下水のかん養能力が最も高いとされるのが大津町や菊陽町など白川中流域の水田です。白川中流域の水田に引き込まれた水は、地下を南西に流れ熊本市東南部の江津湖周辺で地上に吹き出すのです。ところが、かん養耕地の減少や米の生産調整強化に伴う水稲作付面積の減少などによって地下水は減少し続け、特に近年の減少は顕著です。

なんとか湛水面積を増やしたいと、熊本市は平成16年度から転作田での湛水活動に対して助成する仕組みを作っています。しかし、現場では湛水に協力したいとは思っても、「ザル田」と呼ばれるほど浸透が激しい水田に水を張ると養分も流れてしまうのではないか、との懸念がありました。そこで九州沖縄農研土壌環境指標研究チームでは、ニンジンの作付けの間、5~7月の3ヶ月間に湛水をしている生産者の方と一緒に、湛水の前後で土壌養分はどう変化するか、湛水と非湛水でのニンジンの生育や収量はどう違うか等について現地圃場試験を行い、ミネラル分は湛水でむしろ増加すること、窒素やリンは維持されること、地下浸透水の硝酸性窒素濃度は脱窒で低下し水質も良くなること、後作ニンジンの収量は遜色なく販売に有利な等級が増加すること等を明らかにしてきました。

今回の所長キャラバンは、湛水で本当にニンジンの収量が増えたり、品質が良くなったりするのかを確認しようと、ニンジンが収穫時期を迎える12月6日に大津町の現地試験圃場で行いました。キャラバンには湛水事業に協力している生産者の方々や水土里ネットの方々、熊本市の関係者、水や環境を守ろうと活動しているグループの方々、さらにはこの地域のニンジンを学校給食に使っている熊本市の栄養士の方々も飛び入りで参加され、総勢は50名にもなりました。

現地圃場は湛水、非湛水各々1筆と湛水・無施肥1筆の計3筆、栽培されている6品種を掘り上げて比較しました。正確な数値は後日、ということですが、明らかに湛水ニンジンの生育がよく、無施肥でも十分にいけそうに見えました。掘りたての湛水ニンジンにかぶりついた栄養士の方は「甘い!!」を連発されていました。

見学の後、水土里ネット大菊事務所で行った意見交換会では、担当研究者が少し詳しい説明を行うとともに、水土里ネット大菊から地域での取り組みの経緯と現状が説明され、平成19年度の湛水面積は延べ500ha近くにもなり、これにより熊本市民の水使用量の70日分に相当する1300万トンの地下水がかん養されたことが紹介されました。その後のフリーディスカッションでは2つの「質」について要望がありました。水質と作物の品質です。近年、地下水の量の減少とともに水質の悪化(特に硝酸性窒素濃度)も問題になりつつあり、是非、水質改善に向けた研究を進めてほしいとの要望です。また、湛水後の作物品質の研究を進めて欲しいし、早く一般に公表して欲しいという要望もありました。どうすればもっと水を使った営農ができるか、についても議論し、湛水性作物の研究開発を、いや通常湛水しない作物でも栽培法の工夫でかなり水を使うことができるのでは、といった意見が飛び交いました。

行政の助成など社会的な条件整備にも関係する課題であり、直ちに答えを出すことが難しい部分もありますが、今回の意見交換は、参加者全員が湛水の役割と重要性を再認識するとともに、今後の展開について真剣に考えていくよい契機となりました。

成果が地域貢献に直結する場での研究は研究者を育て、湛水活動は地域の方々を育て、そうした活動とできた作物は食育などを通して子供達を育ててくれる、そんな期待を強く抱くことができたキャラバンでした。

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現地圃場前での説明-担当の荒川主任研究
員が試験の経緯や成果を説明-

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掘り上げたニンジンについての説明
-現地圃場の生産者であり湛水営農を先駆的
に取り組んでいる大田黒さんが説明-

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掘りたてのニンジンを食べる熊本市の栄養士さん
-「甘い!!」を連発された-

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意見交換会での現地からの説明
-水土里ネット大菊の紫藤事務局長が今年
の湛水面積は延べ500haに近づいたと説明-

法人番号 7050005005207