研究活動報告詳細

栽培管理支援システムの運用開始

情報公開日:2019年3月13日 (水曜日)

気象情報とICTを活用した
作物の栽培管理を支援する情報システムを開発
-水稲、小麦、大豆を対象に、実証のための運用を開始-

農研機構と(株)ビジョンテックを中心とした研究グループは、予測を含む気象データを利用した水稲、小麦、大豆の栽培管理用の情報システム、「栽培管理支援システム」を開発しました。
本成果は、冷害・高温障害の早期警戒情報1)、発育ステージ・病害予測情報、適期管理・施肥量のアドバイスなど17の情報提供を通じて、農業気象災害の軽減、生産の安定、営農の効率化・大規模化に貢献します。

概要

農業の生産現場では、農業気象災害への対策が急務です。また、大規模化や営農の効率化も急速に進みつつあります。このようななか、気象データをはじめとする作物に関する情報を迅速に生産者に伝え、生産者の的確な判断、対応を支援するための農業情報システムが求められていました。

そこで、農研機構と(株)ビジョンテックを中心とした共同研究グループ(生産システムコンソーシアム C.「情報・通信・制御の連携機能(気象情報)」)は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」において、水稲の冷害や高温障害などの農業気象災害の軽減と、急速に進みつつある農業経営の大規模化を支えるための情報提供システムの開発に取り組みました。そして、予測を含む約1km×1kmのメッシュ農業気象データを用いて、生産者圃場における様々な栽培管理支援情報を作成し、ホームページを通じて伝達する「栽培管理支援システム Ver.1.0」を開発しました(https://magis.jp)。

栽培管理支援システム Ver.1.0 トップページ

栽培管理支援システム Ver.1.0 は、水稲、小麦、大豆を対象作物とし、17種類の情報を提供します。提供する情報には、高温・低温などについての早期警戒情報と、気象データと作物生育モデル・病害モデルを活用して作成される、栽培管理支援情報があります。

農研機構は、システムの実証と改良を目的として、栽培管理支援システムを2019年3月13日から2021年3月末まで運用予定です。研究開発や実証への協力者、機能の試行を目的とする者などに利用者IDを与え、システムの無償利用を認めます。

今後、システムに実装された栽培管理支援情報作成プログラムは、情報コンテンツ単位で、企業のご要望に応じて、各企業の独自営農支援ソリューションに組み込むことができるように準備を進めます。また、農業データ連携基盤(WAGRI)や企業を通じた有償の情報配信サービスが計画されています。

<関連情報>
予算: SIP「次世代農林水産業創造技術」(「情報・通信・制御の連携機能を活用した農作業システムの自動化・知能化による省力・高品質生産技術の開発」課題)

問い合わせ先など

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) 農業環境変動研究センター

研究担当者: 気候変動対応研究領域 温暖化適応策ユニット長 中川 博視
広報担当者: 企画連携室 広報プランナー 大浦 典子

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詳細情報

開発の社会的背景

近年の温暖化傾向により、水稲の高温登熟障害を含む農業気象災害や、気象の年次変動によって生じる栽培管理適期のズレが問題となってきています。また、我が国の土地利用型農業では、一部経営体の規模拡大が急速に進行しつつあります。このような背景のなか、様々な農業気象災害対策や栽培適期管理に役立ち、生産管理の効率化を支援するような農業情報を生産者に届けるシステムの開発が求められていました。他方、現在のICT技術の急速な進歩によって、大量のデータ蓄積とAIなどによる情報生成、インターネットを通じた迅速な情報配信が可能となってきたこともあり、利用者と開発者の双方から農業情報システム開発の機運が高まってきました。

開発の経緯

1993年の水稲大冷害を契機に、1996年に東北農業試験場(現 農研機構東北農業研究センター)が開発した東北地域水稲冷害早期警戒システムが本研究の原点となっています。近年の温暖化傾向や土地利用の高度化の必要性を踏まえ、農研機構では、対象地域を全国に拡げること、水稲の高温障害にも対応すること、小麦、大豆も対象にすることを開発目的に定めました。2011~2015年には、システム開発の基礎となる、全国版メッシュ農業気象データ、作物生育予測モデルおよび気候変動適応技術の開発に取り組みました。また、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業において「水稲高温障害早期警戒・栽培支援システム」という、栽培管理支援システムの原型ともいうべきプロトタイプ開発に取り組みました。それらの知見、経験に基づき、2014年よりSIP「次世代農林水産業創造技術」でシステムの社会実装を目指した取り組みを開始しました。開発チームには、研究機関のみならず、ICT企業と気象会社が参加し、実用性と将来の運用を見据えたシステム開発を行ってきました。このたび、栽培管理支援システム Ver.1.0として公開します。

内容・意義

1.システムの概要

栽培管理支援システムは、インターネット上に提供するホームページから農業気象災害に関する早期警戒情報と様々な栽培管理支援情報を利用者に届けます。作物の品種や播種日、圃場の位置等を利用者が登録すると、システムはメッシュ農業気象データシステムから配信される最新の気象データと作物生育・病害予測モデル等を用いて、発育予測、施肥適期・量、病害防除適期等の栽培管理支援情報を表示します。一部の支援情報の作成には、利用者が入力する、葉色等の作物観察データが必要です。また、気象データと作物生育予測モデルを用いて作成した早期警戒情報を表示します(図1)。これらの情報は、時系列グラフや帯グラフ(図2)や数表(図3)、地図表示や文章(図4)などでホームページ上に表示するほか、幾つかの情報は、電子メールで利用者に通知することも可能です。

2.システムの情報コンテンツ

早期警戒情報として、高温・低温およびフェーンリスクの情報を提供します(表1)。また、水稲、小麦、大豆を対象作物とし、15種類の栽培管理支援情報が提供可能です(表1)。栽培管理支援情報には、気象予測データを活用して栽培中の作物の管理を支援するものと、過去数十年の気象データを活用して作付け計画の策定を支援するものがあります。適期管理に貢献するとともに、他の栽培管理支援情報を作る際の基礎となる発育予測情報については、水稲143品種、小麦13品種、大豆7品種に対応しています。

3.期待される効果

発育予測情報と水稲収穫適期情報は、気象条件によって変化する発育ステージの進行に合わせた適期の栽培管理に貢献します。特に大規模経営では、個々の圃場における発育ステージを効率よく調査することが難しいため、発育予測情報を用いることによって、農作業計画の合理化と作物の状態に合わせた栽培管理が可能になります。近年の異常高温年には、高温登熟障害によって白未熟粒が多発し、1等米比率が落ちることが大きな問題となっています。水稲の高温登熟障害対策支援情報は、気象条件と葉色実測値に基づいて白未熟粒などの品質被害の軽減に効果的な最適な窒素追肥量と施用適期を算出し提供します。このほか、北海道向けの水稲冷害対策支援、水稲病害予測、適期収穫に資する小麦の子実水分予測、大豆潅水支援等の栽培管理支援情報などが利用可能で、冷害対策、病害防除、収穫適期診断、乾燥害の回避などに役立ちます。

4.システムの利用

「栽培管理支援システム Ver.1.0」の 利用マニュアル を公開しています。利用条件や利用方法を確認の上、利用申請して下さい。

今後の予定・期待

1.システムの充実と改良

平成31年3月まで(2年間)システムを運用し、対応品種数の充実や開発途中の情報コンテンツの追加搭載を行うとともに、生産者圃場での実証結果や利用者のご意見に基づいてシステムを改良します。さらに、生産者、都道府県の普及関係者、JA営農指導員、行政、農業情報システムの開発に携わる民間企業の方などに、栽培管理支援システムやそこに搭載された情報コンテンツを実際に使ってもらい、その有効性を確認していく予定です。

2.社会実装への道筋

将来的には、企業の様々な農業情報システムの開発・改良に、栽培管理支援情報を作り出すプログラム群がパーツとして活用されることや、Web-API2)サーバーを通じて様々な企業の営農管理システムに必要な情報を届ける情報配信サービスの創生など、多様な形での農業情報ビジネスの展開が期待されます(図5)。そのために、システムに実装された栽培管理支援情報作成アルゴリズムは、他システムへの組み込みや、本システムとは独立したWeb-APIサービスの構築に利用できるように準備を進めています。

用語の解説

  • 1) 早期警戒情報
    ここでは、生産者が農業気象災害や病害に備えることができるように、予めその危険性を知らせるための情報を指しています。高温・低温情報のような気象データを一次加工した情報に加えて、冷害や高温障害が生じる危険性などのように、作物情報を考慮した上で作成した情報を含みます。後者は、表1の中では、栽培管理支援情報コンテンツの一部として提示されます。
  • 2) Web-API
    API(Application Programming Interface) は、あるコンピュータプログラムの機能やデータを他のプログラムが利用するための手順やデータ形式などを定めた規約のことで、ネットワーク経由で異なるプログラムやその機能を使用できるようにする仕組みが、Web-APIです。

発表論文など

  • 1) 農研機構(2019)「栽培管理支援システム Ver.1.0 利用マニュアル」(2019年3月公開)
  • 2) 中川(2018) 気象データを利用した農業情報を届ける栽培管理支援システム、JATAFFジャーナル、6(5): 62-66
  • 3) 中川(2018) 気象情報を活用した農業情報システムについて、グリーンレポート、586: 2-5

参考図

表1 システムが提供する栽培管理支援情報と早期警戒情報


図1 栽培管理支援システムの概要


図2 発育予測情報(栽培歴表示)


図3 発育予測情報(一覧表示)


図4 発育予測情報(マップ表示)
作付けした水稲(緑色)が、あらかじめ指定した発育ステージや作業時期に近づくと、マーカーの色が黄色に変わり、通知情報(例えば、追肥の時期が近づいているなど)が表示される。


図5 二つの栽培管理支援情報の配信ルート