研究活動報告詳細

「ブタ卵母細胞の成熟機構の解明および超低温保存法の確立に関する研究」が2011年度日本繁殖生物学会奨励賞を受賞

情報公開日:2011年10月 6日 (木曜日)

「ブタ卵母細胞の成熟機構の解明および超低温保存法の確立に関する研究」が2011年度日本繁殖生物学会奨励賞を受賞しました。

受賞者

ソムファイ タマス(家畜育種繁殖研究領域)
ソムファイ タマス(家畜育種繁殖研究領域)

背景・目的

ブタ胚の体外生産技術は、近年、格段に進歩してきている。しかし、他の動物種に比べてその生産効率は低く、さらに、体外生産胚の発生能が低いという点では十分な実用化技術レベルに達しているとはいえない。その実用化には、卵母細胞(以下、卵)の成熟不全や多精子侵入の問題が残され、さらに、技術の普及に必須である卵や胚の超低温保存手法が完全には確立されていないという問題がある。そこで、これらのブタ胚の生産と保存に関する一連の研究を行い、これまでに次のような成果を得た。

内容・特徴

1.体外におけるブタ卵の成熟不全とその胚発生に及ぼす影響

ブタにおける体外胚生産(IVP)の効率性はさまざまな要因により低下する。たとえば、IVPの際の不適切な培養条件は、減数分裂の停止、高い割合の多精子受精、あるいは胚の発生停止を引き起こす。それに関し、卵の周囲に存在する体細胞いわゆる卵胞細胞の状態によって、体外成熟(IVM)卵の細胞質成熟、卵の加齢、さらには発生能にバラツキがあることを見いだした。また、卵が早期に成熟すると、加齢が進みやすく結果的に高率の多精子受精を引き起こした。そこで、ジブチリルcAMP処理で卵の成熟を同調させたところ、加齢現象を抑制することができるようになった。

さらに、IVMの際、かなりの割合(20-30%)の卵で核の成熟が完結せず、未成熟つまり第一減数分裂のような状態で静止することを明らかにした。ところが、このような卵でも受精・培養後に正常な形態を示す胚盤胞を形成する能力があることも突き止めた。このことは、体外胚生産を行う場合は、成熟卵を正確に分別して体外受精(IVF)を行うことが重要であることを示している。IVPの際に胚発生を低下させる1つの要因として、IVMにおける不十分なアクチンの重合が挙げられる(図1)。IVM時に、サイトカラシンBで細胞骨格の重合を阻害すると、相同染色体の分離は阻害されないが極体放出は阻害されるので、卵は二倍体の状態にとどまる。ついで、このいったん分離した染色体は再会合し、第一減数分裂中期の像を呈する。このような卵に単為発生刺激を加えると、姉妹染色分体の分離を起こすことも可能だが、極体放出を抑えると二倍体の胚を作出することができる。この手法により、ドナー動物の卵と同じ遺伝子型をもつ二倍体の単為発生胚を作出することが可能となるので、新たなクローン作製法となりえると考えられる。さらに、多精子受精ブタ卵の体外培養についても検討を加えた。IVF後に遠心処理により前核を可視化し、その数で単精子受精卵あるいは多精子受精卵に分別した(図2)。それにより、多精子受精卵の胚盤胞への発生を確認し、さらに、体外培養中に胚の倍数性の修正が起こることを突き止めた。また、細胞質の断片化と多精子侵入との関連も明らかにした。これら一連の研究を通じて、ブタ卵の成熟不全が、多精子受精の成立に関与すること、さらには受精後の発生能にも負の影響を及ぼすことを明らかにした。

2.ブタ未成熟卵ならびに受精卵の超凍結保存

哺乳動物卵の凍結保存は、凍結によって生存率が低下するので、現在でも克服されていない技術であると考えられている。特に、ブタ卵の超低温保存は、卵細胞質に多量の脂肪を含むため特に困難とされている。

そこで、IVM・IVF卵を固体表面ガラス化法により超急速冷却し、一定期間超低温保存し加温したところ、受精卵の形態ならびにその後の胚発生能(卵割率や胚盤胞率)は、冷却をしていない対照区の受精卵と同様であることを見いだした。これらを体外培養したところ、高率に胚盤胞が得られた。さらに、超低温保存後に受精卵の段階で計5頭の借り腹雌に移植をしたところ、計16頭の生存子豚の作出に世界で初めて成功した(図3)。

一方、未受精卵の超低温保存についてもチャレジしている。IVM後の卵をガラス化冷却し、加温後にIVFならびに培養を行ったところ、世界で初めて胚盤胞の作出に成功した。最近になって、既存技術を改良することで高率(50%超)の生存率が得られるようになり、さらに、凍結保存が細胞質内のグルタチオン量の減少をまねくことで、卵の抗酸化機構に不具合が生じていることも明らかにした。また、成熟前の卵核胞期卵についても検討を加え、ガラス化冷却しても胚が得られることを明らかにした。これらの技術は、いままで不可能であったブタ遺伝資源の保全法としての可能性を持っている。今後は、技術の改良と子豚作出による健常性の証明を進める予定である。

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図1 体外成熟終了後のブタ卵子における細胞骨格
(a)減数分裂をしている卵子
(b)減数分裂を休止している卵子
矢印は卵子表層に存在するアクチンの退行を示す。
緑色:DNA、赤色:微小菅、青色:アクチンの微小フィラメント。

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図2 体外受精後10時間に遠心分離したブタ受精卵
(a)単精子進入(矢印は、各1個の雌雄性前核を示す)
(b)多精子進入(矢印は、雌性前核1個と4個の雄性前核を示す)

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図3 ガラス化凍結を行った体外生産受精卵による子ブタ生産
(a)凍結融解後の受精卵
(b)FDA染色による生存受精卵
(c)生産された子ブタ

法人番号 7050005005207