研究活動報告詳細

「エンドファイトを用いた牧草・飼料作物害虫の生物的防除の研究」が2011年度日本草地学会研究奨励賞(三井賞)を受賞

情報公開日:2011年3月26日 (土曜日)

賞状

平成23年3月26日にエンドファイトを用いた牧草・飼料作物害虫の生物的防除の研究が2011年度日本草地学会研究奨励賞(三井賞)を受賞しました。

本研究では、植物共生糸状菌の一種であるNeotyphodium属菌(エンドファイト)が感染した植物はカメムシ類への抵抗性が向上すること、感染植物のカメムシ類抵抗性の向上は菌が植物中に産生する化合物(N-フォルミルロリン)によってもたらされること、イタリアンライグラスのエンドファイトであるN. occultansがカメムシ類に抵抗性を示す牧草の開発に活用できるエンドファイトとして有望であること、植物中のN-フォルミルロリン濃度を指標とした感染牧草の選抜がカメムシ類抵抗性牧草の作出に有効であることなどを明らかにしました。牧草地での増殖が懸念されている斑点米の原因となるカメムシ類に対して、農薬を使用せずに制御する技術の実現可能性を見いだしたことを高く評価していただきました。

受賞者

柴 卓也(飼料作環境研究チーム(現所属:中央農業総合研究センター 病害虫研究領域))

背景・目的

牧草・飼料作物の栽培においては、給餌する家畜や周辺環境に対する農薬の影響、昨今の厳しい畜産経営情勢下での経済性の観点等から、薬剤による害虫防除が困難である。しかし、イネ科牧草地で発生する害虫はイネとの共通の害虫が多いため、水田周辺で牧草を栽培する際には、水田で被害を発生させる害虫の発生源とならないように、牧草地においても害虫対策が求められるケースが増えている。こうした背景から本研究では、水田地帯の未利用地(休耕田や耕作放棄地)を牧草・飼料作物の栽培に利用した場合の害虫対策(特に斑点米カメムシ類対策)として、イネ科植物の体内に共生するNeotyphodium属の植物共生糸状菌(ネオティフォディウムエンドファイト、以下エンドファイト)を生物的防除素材として活用するための基礎的研究を行った。

内容・特徴

1. エンドファイトが感染した牧草における斑点米カメムシ類抵抗性の向上

エンドファイトの一種、N. loliiが感染したペレニアルライグラスでは、カメムシ類の摂食選好性が低下して給餌しても絶食死同然に死亡することを明らかにし、本菌の活用で牧草地におけるカメムシ類の発生を抑制できる可能性を示した。また、これまでエンドファイト感染牧草は家畜に有害と考えられていたが、メドウフェスクに共生する家畜に毒性を示さない菌(N. uncinatum)がカメムシ類に抵抗性を示すことを明らかにし、家畜毒性とカメムシ抵抗性は独立であることを示した。ほとんどのエンドファイトは植物への人工接種が可能なので、このような菌の探索・活用により、害虫抵抗性の牧草が開発可能であることを示した。

2. エンドファイト感染牧草がカメムシ類に抵抗性を示すメカニズムの解明

任意の薬液をカメムシ類に経口投与する実験系を開発し、これを用いて、感染植物から抽出・精製したエンドファイト由来化合物の一種、N-フォルミルロリン(以下NFL)のカメムシ類への影響を調査した。その結果、この化合物は植物中に蓄積される範囲の濃度でカメムシ類に強い毒性を示し、投与したカメムシ類を死亡させること、また、この化合物を蓄積する感染牧草を給餌しても同様の効果が認められることから、この化合物がカメムシ抵抗性の主要因であることを明らかにした。

3. Neotyphodium occultansのカメムシ防除素材としての有効性の検討

カメムシ類抵抗性牧草育種に活用できる微生物資材として、イタリアンライグラスに共生するエンドファイト、N. occultansを見出すとともに、本菌はカメムシ類に毒性を示すNFLを産生するが家畜に有害な化合物を産生しないこと、本菌が感染した植物におけるNFLの濃度はカメムシ類に抵抗性を示すのに十分な水準に達することを明らかにした。また、植物体内のNFLの濃度の上昇に従ってカメムシ類への抵抗性の程度が強まることを明らかにし、この化合物の蓄積量を指標とした感染牧草の選抜が抵抗性牧草作出に有効であることを示した。

4. エンドファイト感染牧草が抵抗性を示す害虫の検索

エンドファイトが感染した牧草は、チョウ目、バッタ目、甲虫目、カメムシ目などの害虫12種に対して、摂食忌避や中毒を引き起こすなど阻害的に作用することを、NFLを経口投与する試験や感染植物を給餌する試験により明らかにした。特に、牧草地での発生が問題となっているすべての種類のカメムシ類に対して阻害的に作用することを明らかにした。これらの研究により、エンドファイトを活用して害虫抵抗性を向上させた牧草の開発により、牧草地における斑点米の発生要因となるカメムシ類など、害虫の発生を大幅に減少させ得ることを示した。

5. 将来の研究構想

これまでに明らかにしたエンドファイトによる害虫抵抗性向上効果、およびその研究手法を活用し、様々な害虫に抵抗性を示し、かつ、農業上の利用価値が高い牧草の開発を目指す。有効な害虫抵抗性牧草により、牧草地における害虫の発生を農薬に依存せずに制御できることから、周辺の一般作物への害虫被害の懸念から牧草栽培が制限されてきた地域での飼料生産の選択肢が広がるほか、牧草そのものの害虫被害の軽減・増収も期待できる。また、こうした植物は、これまで害虫発生源として問題視されてきた河川敷や道路法面等への利用や、燃料用バイオマス植物資源としての活用も期待できる。

法人番号 7050005005207