研究活動報告詳細

畜産草地研究所の研究成果2件が2010年度日本畜産学会「学会賞」および「奨励賞」を受賞

情報公開日:2010年5月25日 (火曜日)

平成22年3月25~28日に明治大学駿河台キャンパスで開催された第112回日本畜産学会大会において、畜産草地研究所の研究成果「牛の代謝および内分泌機能の特性と生体防御機構の関連性に関する研究」が日本畜産学会賞を、「反芻家畜ルーメン内繊維分解性Fibrobactoer属細菌の機能および生態解明」が日本畜産学会奨励賞を受賞しました。

日本畜産学会賞

牛の代謝および内分泌機能の特性と生体防御機構の関連性に関する研究

研究担当者

栄養素代謝研究チーム 上席研究員 櫛引史郎

表彰式の様子(学会賞)
写真撮影:竹中昭雄氏(国際農林水産業研究センター)

背景と目的

牛の代謝および内分泌機能の特性として、子牛期では単胃動物から反芻動物特有の栄養素摂取過程に変化する中での栄養生理機能を制御するとともに、成牛では乳生産を維持するための栄養素の配分調節作用がある。近年、代謝および内分泌機能は免疫機能と密接に関連しており、サイトカインがメディエーターとして機能していることが明らかになってきているが、牛の成長や泌乳においては不明の点が多く、牛の生産機能制御研究の隘路となっている。特に、グラム陰性菌から放出されるエンドトキシン(ET)により牛の代謝および内分泌機能が変調をきたすことは知られているが、そのメディエーターである炎症性サイトカインとの関連性を追求する研究は行われていなかった。本研究は、ETのメディエーターとして腫瘍壊死因子(TNF-α)に着目し、組換え型牛TNF-αを用いて、牛の代謝調節機能や内分泌機能に及ぼすTNF-αの作用を明らかにし、その成果を牛ラクトフェリン(LF)の生理作用を利用した炎症反応の制御に結びつける研究に進展させたものである。

内容・特徴

  • 牛の代謝および内分泌機能に及ぼすTNF-αの作用
    TNF-αを牛の頸静脈から投与すると、発熱、呼吸速迫などの臨床症状や、血中グルコースおよびインスリン濃度に一過性の上昇に続く減少などの変調が認められた。さらに、血中の急性期タンパク質も増加した。これらの変化はET投与による反応と同一であることから、急性期反応やETショックによる生体反応の変調には、TNF-αがメディエーターとして機能していると考えられた。さらにTNF-αが過剰に発現する病態における栄養素代謝への影響を解明するために、組換え型牛TNF-αを牛の皮下に長期間投与した。その結果、インスリン濃度が上昇するとともに、グルコース負荷後のインスリン反応性が増大し、インスリン投与に対する血中グルコースの反応性が抑制された。これらの変調は、TNF-αによりインスリン感受性が低下したことを示しており、TNF-αは牛のグルコース代謝に影響を及ぼすことが明らかになった(図1)。さらに乳量の減少と成長ホルモン分泌の抑制も認められ、TNF-αの過剰な産生は成長や生産に負の影響を及ぼすことが判明した。
  • LFによる抗炎症作用
    哺乳子牛に10日間LFを給与した後にETを投与すると、LF無給与の子牛に比べて血中の代謝産物、ホルモン、および炎症性サイトカイン濃度の変調が抑えられた。特にTNF-αおよび急性期タンパク質濃度の上昇が抑制されたことから、LFは哺乳子牛に対して抗炎症作用を示すことが明らかになった(図2)。

図1.TNF-αと栄養素代謝

図2.TNF-αの制御

日本畜産学会奨励賞

反芻家畜ルーメン内繊維分解性Fibrobactoer属細菌の機能および生態解明

研究担当者

分子栄養研究チーム 任期付研究員 真貝拓三

表彰式の様子(奨励賞)

背景と目的

反すう家畜は、人間が消化・利用できない植物繊維(粗飼料)を消化し、エネルギーとして利用できることから、古くより家畜化されています。この機能は家畜自身がもっているわけではなく、第一胃(ルーメン)に生息する微生物の繊維分解機能に委ねられています。
一般に粗飼料を主体とする飼料で飼養すると、ルーメン内での発酵は安定しますが、体積が大きいことや分解に時間がかかることなどから粗飼料の利用は制限されます。このため、粗飼料資源を最大限に利用するためには、ルーメン微生物による繊維分解システムの解明と機能強化が不可欠です。また近年、輸入飼料価格が高騰後、高止まりがつづき畜産経営を圧迫していることから、自給粗飼料の積極的な利用を促進するための基盤研究はその重要性を増しています。そこで、繊維分解を向上させるための主役と成りうる細菌種さらに種内系統を特定するとともに、その主役と共生する可能性の高い細菌種のリストアップを試みました。

内容・特徴

ルーメン内には約400種類の細菌が生息していますが、繊維を分解する細菌は粗飼料に付着して分解するため、粗飼料片上の細菌の生態・生理に着目した研究を展開しました。
蛍光顕微鏡の観察下において、粗飼料の自家蛍光を抑制し、細菌の蛍光シグナルを検出可能にする手法を確立し(図1)、ルーメン内の粗飼料に付着するセルロース分解菌の局在と付着様相を明らかにしました。また、定量的PCR法を用いて、粗飼料上の細菌の付着動態をモニタリングした結果、Fibrobacter succinogenes(ファイブロバクターサクシノジェネス)という細菌種のうち特定の遺伝系統(系統1)が、粗飼料の難分解性組織の分解を主導する重要菌種であると推定されました(図2)。
一方で、分離の難しいF. succinogenesについて、新規系統株を含む野生株32株の取得に成功し、生理機能を調べたところ、特定の種内系統(系統1)が粗飼料の分解能力の高い菌株を含んでいることが明らかになり、本種内系統が難分解性組織の分解能力をもつ証拠を得ました。また、本種内系統を中核とする細菌共同体の菌種構成を特定し、ルーメン内における他細菌との関わりの一端を明らかにしました。
一連の研究により、F. succinogenesの各種内系統が生理機能をある程度反映することを示した上で、各種内系統の機能的な特徴を明らかにし、粗飼料分解向上の中核と成りうる種内系統を特定しました。本研究成果は、ルーメン内細菌の機能・生態解析手法の開発といった学術的な貢献だけでなく、自給粗飼料の消化性改善などの応用的な技術への貢献も期待されます。

図1
図1 細菌の蛍光シグナル検出手法

図2
図2 難分解性粗飼料に対する菌付着量の推移

用語解説

反すう家畜:
牛、羊、山羊などに代表される、「口での咀嚼-胃からのはき戻し」の繰り返す行動(反すう)を行う家畜動物。反すうは飼料消化を促進する重要な行動。

種内系統:
菌種は基本形質や遺伝形質が同じ菌株の分類単位のひとつ。種内系統は、同一種内において、別種とは認められないが一部の形質や遺伝形質が異なる菌株の分類群を指す。

自家蛍光:
蛍光顕微鏡観察下において、植物組織が非特異的に励起光を放つ現象。植物には、光に反応して励起してしまう物質が多く、励起する波長域が広い(様々な波長の光に励起)ため、植物に付着する細菌の蛍光観察は極めて困難であった。

法人番号 7050005005207