研究活動報告詳細

「豚における遺伝的能力の推定精度の向上に関する研究」第40回日本養豚学会丹羽賞(学術賞)を受賞

情報公開日:2010年5月24日 (月曜日)

平成22年3月25日、東京農工大学で開催された第93回日本養豚学会大会において、畜産草地研究所の「豚における遺伝的能力の推定精度の向上に関する研究」が第40回日本養豚学会丹羽賞(学術賞)を受賞しました。

研究担当者

家畜育種増殖研究チーム 上席研究員 佐藤正寛

授賞式の様子賞状メダル

内容

背景と目的

豚集団を育種改良するためには、集団内における各個体の遺伝的能力を正確に推定し、優れた種豚を選抜することが重要である。遺伝的能力の推定にいかなる方法を用いる場合でも、まず当該集団において改良したい形質における遺伝率などの遺伝的パラメーターを正確に推定しなければならない。次に、遺伝的能力を推定する方法(遺伝的能力評価法)の中で、育種目標を最も効率的に達成できる評価法を選択する。遺伝的能力評価法の良し悪しを判断するためには、各評価法によって選抜を実施したときの選抜形質における平均や遺伝分散などの選抜反応を正確に予測する必要がある。また、既存の遺伝的能力評価法よりも優れた評価法を開発することができれば、より効率的な育種改良が可能になる。

本研究は、豚の育種改良を効率的にすすめるために、遺伝的能力をより正確に推定するための種々の方法を開発するとともに、研究成果の育種現場での利用を推進した。

内容・特徴

  • 豚集団における遺伝的パラメーターの推定精度向上のための検討
    遺伝的能力を正確に推定するためには、育種集団における選抜対象形質の遺伝率などの遺伝的パラメーターをあらかじめ推定しておく必要がある。そこで、推定精度の高い遺伝的パラメーターを得るためのデータの収集法について検討した。その結果、豚系統造成のように小規模なために収集できるデータ数に限界がある場合、2世代分以上で400頭以上のデータ数が収集の目安となることを示した。また、繁殖形質のような限性形質では、データ数が一定の場合、1腹あたりの育成種豚数が多いほど遺伝率の推定精度が高くなり、個体の産次数やそのばらつきはその推定精度に影響しないことを明らかにした。
  • BLUP法およびQTL情報を用いた選抜反応の予測法の確立
    優れた遺伝的能力評価法を選択し、それを育種改良に利用するためには、その選抜反応を正確に予測する必要がある。BLUP法は遺伝的能力を推定する優れた方法であるが、この方法による選抜反応を予測することは難しい。そこで、豚の育種集団では種雄豚に交配する雌豚数や1腹の育成豚数のばらつきが小さいことを利用して、 BLUP法による選抜反応を予測する方法を考案した。また、様々なシミュレーションモデルを用いたコンピュータシミュレーションにより、これらの予測精度が高いことを検証した。
  • 豚の繁殖能力における育種改良手法の効率化
    豚は3元雑種の利用が主流であり、雌系であるランドレース種と大ヨークシャー種には、産子数や離乳時体重等に高い能力が要求される。しかし、繁殖形質は一般に遺伝率が低く、限性形質であるため、選抜による改良は困難であるとされてきた。そこで、選抜候補豚およびその血縁個体の情報等を用いることにより、選抜による繁殖形質の改良が可能であることを理論的に導き、シミュレーションおよびゴールデンハムスターによる選抜実験により検証した。現在これらの方法は、豚系統造成における産子数や離乳時体重の改良に広く利用されている。
  • 相対希望改良量を達成するための遺伝的能力評価法の開発
    相対希望改良量を達成するための遺伝的能力評価法として、従来用いられてきた制限付きBLUP法に理論的な改良を加えた新たな制限付きBLUP法を考案するとともに、その演算アルゴリズムを開発した。この新たな方法は、従来の方法に比べて育種改良の効率が1.4~2.0倍になることや選抜の方向に偏りの生じないことが示された。また、家系選抜指数を用いることにより、相対希望改良量から相対経済価値を逆算して総合育種価を算出する方法を考案した。現在、この方法は豚系統造成の遺伝的能力評価法として最も広く利用されている。
  • 遺伝的能力評価のための演算手法の改良とプログラムの提供
    1990年代以降、制限付き選抜指数法に代わり、制限付きBLUP法や線形計画法を利用する理論が登場したものの、未だ汎用性のあるプログラムは存在しない。そこで、BLUP法などの演算をより効率的に行うためのアルゴリズムを考案するとともに、そのアルゴリズムを用いて種豚の遺伝的能力評価法のための汎用性プログラムを作成し、広く一般に提供した。また、近交・血縁係数の算出や家系選抜指数による選抜反応の予測プログラムを作成し、一般に公開した。これらのプログラムは、豚の系統造成を初めとする育種改良の現場で有用であり、畜産草地研究所のウェブサイトより一般に公開している。
法人番号 7050005005207