研究活動報告詳細

「草地植生遷移解明に基づく多様な放牧地の高度利用に関する研究」が2012年度日本草地学会賞を受賞

情報公開日:2012年9月11日 (火曜日)

受賞の様子 受賞の様子

受賞者

山本嘉人(草地管理研究領域)

背景・目的

極相が森林となるわが国では、採草や放牧といった適度な人為圧を加えることによって草原植生(草地)が維持されています。重要な飼料基盤である草地には、導入牧草からなる人工草地(牧草地)と、在来植物(ススキやシバ等)が繁茂する半自然草地(野草地)とがあり、前者では牧草播種により植生の形成をはかり、施肥や刈取りといった集約的な管理により生産性の高い草地植生が維持されています。これに対して野草地では、その地域環境下での利用(人為圧)の仕方により、草地植生はススキ型草地、シバ型草地、ササ型草地等の様々なタイプ(型)に変化していくことを、長期の調査研究等により明らかにしてきました。利用に伴う植生変化の方向や差異およびその移行速度を明らかにしておくことは、畜産利用のみならず種保全や景観保持の視点からも草地植生を管理する上できわめて重要です。

近年農村地域では高齢化過疎化に伴う管理労力不足等による耕作放棄地の拡大に歯止めがかかりません。一方で輸入飼料の高騰や供給不安等から、飼料自給率向上は畜産分野にかぎらず消費者も含めた国民全体の要望といえます。遊休田を放牧地として草地化し、肉用繁殖牛等を放牧する「水田放牧」にも注目が集まっており、耕作放棄地解消に向けた放牧畜産に対する期待は大きいといえます。野草地化した耕作放棄地も含めてわが国に分布する優良草類を安価な粗飼料資源として活用することが重要であり、放牧利用による生産力ならびに植生の動態解明は緊急かつ重要な問題です。

本研究では、草地利用に伴う植生の変化を明らかにすることによって、耕作放棄地も含めた多様な飼料基盤を組み合わせた放牧利用技術の開発を行いました。

内容・特徴

1.草地の植生遷移の実態解明

図1草地植生は、放牧、刈取り等の人為圧によって推移します。草地植生調査では、従来から群落内の構成種の量的優劣関係を示す指数として積算優占度が用いられてきましたが、その値で草地間や年次間の比較は不可能です。そこで、各草種の優占度を用いて草地間、年次間で比較できるように、新しい指数「拡張積算優占度」を提案しました。この新しい指数を用いて、異なる地域の草地において、放牧、施肥、刈取、火入れ等の異なる人為圧を継続的に加え、各草地の経時的な植生構成種の優占度の変化を追跡することにより、草地の植生遷移の方向が異なることを明らかにし(図1)、地域間でその速度等が異なることを示しました(図2)。また、放牧により植生がススキ型からシバ型へ移行する草地において、ススキとシバのいずれの草種も拡張積算優占度が中間値の時にその群落は最も高い種多様性を示す等、遷移速度とともに種多様性の変動を明らかにし(図3)、さらに全面開花後に衰退したネザサ草地の回復過程も追跡しました。このように長期にわたって蓄積された草地植生調査結果から、植生遷移の方向とその速さを明らかにしてきましたが、これらの成果は、草地植生管理技術につながる遷移機構の解明に役立つと考えています。

図2 図3

 

2.多様な草地の組み合わせによる周年放牧利用技術

周年放牧では家畜管理労力や畜舎の制限少なくして飼養頭数の増大が可能となり、従来の夏山冬里方式に比べ、さらなる低コスト省力生産が可能となります。一年を通した放牧用飼料基盤が確保するためには、多様な草資源を組み合わせ利用することが不可欠であり、その草地管理利用法の開発が切望されていました。草地植生遷移の実態を受けて、放牧向きの飼料基盤として、耕作放棄地、棚田や転作田の活用(写真1)、既存草地の高度利用を推進するために、それぞれの草地において利用法の差異にともなう生産量や栄養価の変動を明らかにし、草地の組み合わせ法やその利用法を明らかにしました。まず西日本に広範囲にわたって分布するネザサ草地の放牧条件下における牧養力を明らかにし、さらに温暖な九州低標高地帯において冬季イタリアンライグラスと組み合わせる夏季放牧用1年生高栄養牧草種として、ギニアグラス等が適していることを示しました。また、水田放牧草地へは耐湿性が高い1年生牧草の栽培ヒエを組み入れることで、従来の永年牧草種よりも生産量を高まることを示しました(図4)。傾斜地等の耕作放棄地等の草地化では、新しいシバ型草種のセンチピードグラス(写真2)を省力的に早期定着させ利用する技術を提案するとともに、外来種でもあるセンチピードグラスが利用放棄により衰退することも示しました。さらに広大な山間部に集約草地を造成することにより無牧柵の林内放牧利用の可能性も示しました。このような多様な土地基盤に応じて適草種を導入し放牧利用促進を図ることは、周年放牧の普及に大いに寄与できるとともに、耕作放棄地等の利活用にも貢献できると考えています。

図4

写真1.水田放牧 写真2.センチピードグラス

3.おわりに

ここ20年ほどの間に牧草の夏枯れ現象が著しく寒地型牧草地の衰退が顕在化しています。地球温暖化による草種の適用地域の見直しが求められますが、低労力や低投入資材型の省資源管理の視点からも、在来草種を含めた幅広い植物種の生育特性の再評価が必要と考えています。これらの再評価を基に、気象、土壌、農地管理密度(農家数など)等の地域条件に応じた、持続可能な全国草地植生保全管理マップの作成とともに、保全管理の新たな担い手(営農集団、新規就農者等)の創出や支援が必要と感じています。

法人番号 7050005005207