研究活動報告詳細

「高受胎率が望める牛受精卵の体外生産・凍結保存・選抜技術の開発」が第11回日本農学進歩賞を受賞

情報公開日:2013年1月25日 (金曜日)

受賞写真

受賞者

ソムファイ タマス(家畜育種繁殖研究領域)

背景・目的

1985年に世界に先駆けて畜産草地研究所(旧畜産試験場)で開発された体外受精卵移植技術は、食肉処理場で得られる卵巣から未成熟卵子を取り出して体外で成熟・受精・発生培養を行い、子宮内移植が可能な状態の受精卵を生産する画期的な繁殖技術である。しかし、この技術によって、わが国で生産される子牛は年間3,357頭(2008年度)にとどまっている。その理由として、日本では受精卵移植に用いる受胚牛の頭数が少なく移植に適した時期の受胚牛の選択が困難であるため、新鮮なものと比べて扱いが容易な凍結した受精卵の移植が一般に普及しているが、体外受精卵は体内受精卵と比較して凍結保存に弱く受胎率が低いことが上げられる。この状況を打破するには、体外受精卵の培養技術や凍結保存技術を高度化し、高受胎率が望める高品質な体外受精卵を生産する必要がある。

内容・特徴

1. 牛体外生産受精卵の培養方法及び高品質受精卵の選別方法の改良

体外受精卵は、一般的に20~100個の卵子をグループ培養しているが、この培養方法では、個々の受精卵を区別して発生経過を追跡することができない。異常な発生経過をたどった受精卵を廃棄し、受精卵移植に用いる高品質な受精卵を選別するためには、個々の受精卵の発生経過の観察が重要である。微小滴による個々の受精卵の培養方法も検討されているが、他の受精卵が産生する各種因子が作用することができないために正常な発生が期待できない。そこで、同一の培養液ドロップ中において、個々の受精卵の発生を追跡可能な培養方法について検討を行い、well-of-the-well (WOW) dish やpolyethylene terephthalate (PET) meshを用いた培養が個々に観察しうる受精卵の培養方法として適しており、これらの方法は、タイムラプスシネマトグラフィによる観察が可能な新たな培養皿の開発へとつながった。また、タイムラプスシネマトグラフィを用いた観察により、体外受精卵の約半数は異常な卵割を示し、これらの受精卵は胚盤胞期への発生率が低く、発生した胚盤胞の多くが染色体異常を示すことをあきらかにした(図1)。そこで、第1卵割の時間と卵割様式に基づいた体外受精卵の選別基準を作製し、タイムラプスシネマトグラフィによる個々の受精卵の発生過程の観察による受精卵移植における高い受胎能を持つ健康な受精卵の選別を可能とした。

2. 牛卵子及び体外受精卵の細胞内脂肪性状の改変による耐凍性の向上

凍結保存技術は、牛受精卵の保存と輸送を可能とする重要な技術であり、使用する時期と場所を自由に設定することを可能とする。しかし、牛体外受精卵は、高濃度の脂肪を含んでおり、そのことが耐凍性の低下を招いていると考えられている。そこで、脂肪代謝を促進するL-カルニチンを用いて牛受精卵及び卵子中の脂肪の性状を改変し、耐凍性が改善するかを検討した。その結果、ウシ体外受精卵の発生培地へのL-カルニチン添加により、胚盤胞期への発生率が高まり、胚盤胞の脂肪含量が減少するとともに、緩慢凍結法における凍結・融解後の生存性が向上した(図2)。
さらに、体外成熟培地へのL-カルニチン添加は、体外成熟後にガラス化保存した卵子の発生率を改善することをあきらかにした。すなわち、L-カルニチンは、脂肪代謝の亢進による細胞内脂肪の減少により耐凍性を向上させるとともに胚発生率をも向上させた。

第1卵割における卵割様式が発生能力と染色体数の正常性に及ぼす影響
図1 第1卵割における卵割様式が発生能力と染色体数の正常性(二倍体)に及ぼす影響

L-カルニチン添加の有無が胚盤胞期への発生率および凍結保存・加温後の生存性
図2 L-カルニチン添加の有無が(A)胚盤胞期への発生率および(B)凍結保存・加温後の生存性に及ぼす影響

法人番号 7050005005207