研究活動報告詳細

「家畜・家禽の生産性向上を目指した遺伝的能力評価に関する研究」が2013年度日本畜産学会賞を受賞

情報公開日:2013年6月17日 (月曜日)

受賞者写真

受賞者

佐々木 修(家畜育種繁殖研究領域)

背景と目的

乳用牛では、近年、乳生産量が増加する一方で、繁殖性の低下や在群期間の短縮が問題となっている。そのため、国内で飼養されている乳用牛の記録を用いて、農家の生産性と繁殖性および在群性との関係を明らかにし、今後の乳用牛の選抜指標について検討する必要がある。また、在群期間の短縮は産次数の減少につながり、能力の高い雌牛から後継牛を得ることが難しくなる。近年実用化された性選別精液の利用により、産次数が少ない場合でも確実に後継牛を得ることが期待できる。しかし、性選別精液は高価であり、受胎率が低いことから、その利用による経済効果を検討する必要がある。さらに、繁殖性を高め、在群期間を長くするためには、乳用牛の在群性能力に対し、遺伝的な改良を行う必要がある。しかし、一般に在群性は、観察期間が長期にわたり、環境の影響を強く受けるため、遺伝率が低い。また、記録を持たない若い個体の遺伝的能力を正確に推定できないという問題がある。そのため、在群性の改良には、若い個体の遺伝的能力をより正確に推定できる手法やモデルの開発が必要である。
本研究では、牛群検定記録の解析により、実際の牛群における生産性と繁殖性および在群性との関係を明確にした。また、後継牛の確保のための性選別精液の利用について検討するとともに、その経済効果を明らかにした。さらに、安定的に遺伝的能力を推定できる在群性能力評価モデルを開発した。

内容特徴

  • 乳量と産次数の異なる酪農家間の繁殖形質および管理形質の比較
    ホルスタイン種の牛群検定記録の解析により、1982年以降の乳量の上昇に対して、産次数は1988年まで大きく減少したが、それ以降は一定であることを 示した。しかし、1986年以降、分娩間隔は全国的に長くなる傾向にあり、繁殖性が低下していることを示した。その中で、牛群の乳量レベルに関係なく、濃 厚飼料給与量を抑制している牛群の産次数が多い傾向があり、濃厚飼料給与量を抑えることにより、乳量が高く産次数も多い管理が可能であることを示唆した。 また、乳量の多い牛群の中では、産次数が多い牛群に比べて産次数が少ない牛群における規模拡大が顕著であり、繁殖性低下を抑制するためには、乳生産量の増 加や規模拡大にあわせた適切な管理が重要であることを明らかにした。
  • わが国の乳用牛群における性選別精液の利用による経済効果
    性選別精液を利用しない場合、ホルスタイン種精液のみ性選別精液とする場合、ホルスタイン種と黒毛和種精液を全て性選別精液とする場合の3通りについて、 その経済価値をシミュレーションにより比較した。牛群規模を維持するための後継牛確保にのみ、ホルスタイン種性選別精液を利用することで、後継牛の確保が 容易になるとともに、性選別精液の利用を最小限に抑えることで牛群の受胎率低下を抑制できることを明らかにした。また、黒毛和種精液の利用率を高めてF1 子牛の生産量を増やすことで、所得増加の可能性があることを明らかにした(図1)。あわせて、乳用牛群における黒毛和種性選別精液の利用には、F1子牛の 雌雄の価格差が大きくなければ経済効果がないことを明らかにした。また、これらのシミュレーション結果を比較することで、所得の向上に必要なホルスタイン 種雄子牛とF1子牛との価格差の算出が可能であることを示した。
  • 生存時間解析法によるわが国の乳用牛における在群性能力の評価
    ホルスタイン種牛群について、比例ハザードモデルを用いた生存時間解析により、在群性の遺伝的パラメーターを推定するとともに、遺伝的能力評価の安定性に ついて検討した。作成した解析モデルにおける、オリジナルスケールの遺伝率は0.119~0.123であり、在群性の遺伝率としては十分な大きさの遺伝率 を得ることが出来た。遺伝伝達能力の年次による評価の偏りを示す係数、および収集年次の異なる2つのデータセットから推定した種雄牛の遺伝伝達能力間の回 帰係数から、年次によるデータの追加があった場合でも、本研究で作成した解析モデルを用いることにより、種雄牛の安定した遺伝的能力評価が可能であること を示した(図2)。

雌子牛が90%生まれるホルスタイン種性選別精液を利用した場合としない場合との所得差
図1 雌子牛が90%生まれるホルスタイン種性選別精液を利用した場合としない場合との所得差
(年間分娩60頭の牛群で、牛群規模を維持する雌子牛を生産する以外は黒毛和種精液でF1子牛を生産した場合)

1991~2003年のデータに2004~2005年のデータを追加する前後の在群性の種雄牛評価値間の関係
図2 1991~2003年のデータに2004~2005年のデータを追加する前後の在群性の種雄牛評価値間の関係
(直線的な関係があり、評価が安定していることを示す)

法人番号 7050005005207