研究活動報告詳細

「集約放牧技術の普及と女性研究者のメンターおよび研究環境改善」が2015年度日本草地学会女性研究者賞を受賞

情報公開日:2015年5月21日 (木曜日)

賞状盾

受賞者

栂村 恭子(草地管理研究領域)

研究の背景

わが国の畜産は急激な規模拡大、泌乳量・増体量の増加の変革が起きました。粗放な放牧体系では、土地基盤の不足や生産性の低さからこの変化に対応できず、多くの放牧飼養農家が舎飼い飼養へと変換しました。また、肉用牛における脂肪交雑重視や乳脂肪の取引基準の3.5%への引き上げも、放牧を継続していた畜産農家が舎飼いに変わる要因となりました。放牧は低コストで省力的であっても、土地当たり、個体当たりの生産性が低いことが畜産農家に敬遠される理由となってきました。私達の研究所では、「放牧では牛がうまく飼えない」という認識を変えようと、1980年代後半から多くの研究者が参画して、牧草生産から畜産物生産において様々な改善技術を組み合わせて取り組んできました。

成果の内容

受賞対象となった集約放牧技術は、草地を集約的に利用して高い家畜生産を行う放牧方式です。様々な技術要素を組み合わせて、草生産から家畜生産に至る段階で改善を施し、従来の従来の放牧管理技術に比べて、育成牛で3倍の家畜生産を達成しました。単に単位面積当たりの家畜生産性を改善するだけでなく、家畜個体の生産性(日増体量、日乳量)を改善できます。家畜の生産性改善で最も効果が大きいものが、放牧草の消化率(TDN含量)の改善です。そのためには放牧草を短く管理することが重要であることを草丈を指標として具体的に示しました。春の放牧草は濃厚飼料に匹敵するぐらい、消化性が高く、粗蛋白質含量が高いのですが、集約放牧技術を栄養要求量の高い乳牛に適用するにあたって、BUNの上昇や乳脂率の低下などの問題に直面しました。放牧草はサイレージや乾草に比べて、繊維含量が低く、粗蛋白質含量が高い特徴がありますが、その他に繊維成分の物理性が弱い、窒素成分分解しやすく第一胃内で急激にアンモニアが生成されることが可能性として考えられました。しかし、実際にグラスサイレージを放牧草に置換し、飼料成分を調整した飼料を搾乳牛に給与して比較してみると、粗飼料価指数(RVI)はグラスサイレージと同等、ルーメン液中のアンモニア濃度は放牧草(生草)の方が、濃度が低く飼料給与後の上昇も緩やかでした。このことから放牧草は繊維含量が低い、粗蛋白質含量が高いことを理解して、グラスサイレージと同様の考え方で飼料設計を行うことが重要であることが明らかになりました。しかし、飼料設計をするにも、日本標準飼料成分表には放牧草の目安となる数値が記載されていませんでした。そこで、2009年の改訂時に別表として放牧草の組成、栄養価を追加した。また、日本飼養標準・乳牛(2006年版)、肉用牛(2008年版)には、飼料設計の注意点や放牧草の栄養価に応じた採食量についての解説を充実させました。

日本草地学会女性研究者賞は、草地学および草地農業の発展に顕著な研究業績をあげ、わが国における男女共同参画社会の構築に寄与した女性研究者に贈られる賞です。私が乳牛の集約放牧技術に関する課題を担当していた頃、妊娠、出産が重なりました。体重が600kg以上もある乳牛を用いた200日以上の長期の放牧試験は、とても一人でできるものではありません。周囲のサポートがなければ妊娠中、育児休業中も中断なく研究が続けられませんでした。子供を持ってから研究との両立の難しさに気づくことも多く、学会開催中の保育室の設置などに係わってきました。このような活動も評価されたことも大変嬉しいことです。

法人番号 7050005005207