研究活動報告詳細

平成27年度第3回東北農研連携推進ツアー

情報公開日:2015年7月22日 (水曜日)

フザリウム属菌による土壌伝染性病害には、ホウレンソウ萎凋病 (いちょうびょう) 、レタス根腐れ病 (ねぐされびょう) 、イチゴ萎黄病 (いおうびょう) などがあり、その被害は時として甚大です。また、ホモプシス属菌によるキュウリ根腐病も東北地域で大きな被害をもたらしています。一般に土壌伝染性病害の防除には、薬剤防除だけでなく耕種的防除等も組み合わせた総合的な病害管理対応が必要です。東北農研では、「農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業」 (農食事業) において、他の試験研究機関と協力しながら「転炉 (てんろ) スラグによる土壌pH矯正を核としたフザリウム性土壌病害の耕種的防除技術の開発」に取り組み、転炉スラグ施用で土壌のpH値を7.5程度に高めることにより、土壌病害の被害を低減できることを明らかにしました。転炉スラグは、製鉄所において鉄鉱石やコークスなど天然物原料から (はがね) の製造時に副次的に産出され、肥料 (副産石灰肥料または特殊肥料) として利用されています。

今回のツアーは、岩手県農業研究センターの大友室長 (病理昆虫研究室) 及び盛岡・八幡平の両農業改良普及センターにご協力いただくとともに、農食事業の研究統括者を担当した門田上席研究員 (病害虫グループ) にも同行いただき、転炉スラグによる病害低減技術を導入している野菜農家2軒を訪問しました。

最初に訪問したのは、岩手郡雫石町の農家、諏訪剛郎さんの露地夏秋キュウリ栽培圃場 (15a) です。平成23年度にキュウリホモプシス根腐病の発病が確認されたことから、クロルピクリンによる土壌消毒と合わせて、平成24年度から転炉スラグの利用技術が導入されています。クロルピクリンで土壌消毒をした場合には、ガス抜きのため栽培を再開するまでに30~40日要することに加え、薬剤使用そのものに抵抗感があるため、諏訪さんは転炉スラグ技術導入による土壌改良で発病の抑制を目指したそうです。平成24年度に多量の転炉スラグを施用しpH7.5程度に高めた後は、その値を維持するため平成25、26年度と転炉スラグの施用を継続する必要がありました。しかし、施用量は減少傾向にあり、コスト面での負担、施用に関する手間も少なくなってきているとのこと。毎年施用することへの懸念等も話題にのぼりましたが、安心してキュウリ栽培できることを確認いただき、現場の疑問にお答えすることができました。

冷涼な気候の岩手県では夏期にホウレンソウの生産が可能であり、貴重な葉物野菜となっています。近年夏場の高温が続いており、ホウレンソウでは萎凋病の発生が多く収量の減少が問題です。岩手郡葛巻町の農家、川原利男さんは雨よけホウレンソウ (7a) を年間4~5回栽培されており、夏期の収量減少対策として萎凋病に強い品種を利用していました。しかし十分な効果が認められないことに加え、クロルピクリンによる消毒では2年、3年の効果の持続は期待できないことから、農業改良普及センターからの提案により転炉スラグ技術を導入しました。その結果、ホウレンソウの根張りが良くなることで (しお) れにくく生育が早い、葉軸 (茎) が太くなることで1株の本数が少なくなる (夏場のホウレンソウの葉軸は細く本数が多い) 、株がしっかりしているため1束分の株数が減り包装作業も省力化できる、と多くのメリットを感じているご様子でした。転炉スラグによる発病抑制はフザリウム属菌の死滅によるものではないことから、高い土壌pHの維持が必要であるとともに夏場の高温対策も欠かせません。川原さんのように適切な管理をされている農家では、転炉スラグ利用技術が大きく活かされており、今後も継続的に本技術を利用されるようでした。

野菜生産現場への転炉スラグ技術普及にあたり、病害と高温障害との見分けや、薬剤使用と転炉スラグ導入に関わる基準に照らした的確な導入の提案、土壌pH測定による施用量の確定など、農業改良普及センターによるきめ細かな指導も印象に残りました。フザリウム病やホモプシス根腐病以外への影響解明など検討事項はあるものの、開発技術が農家に貢献できている様子を確認出来、技術開発の重要性を強く感じました。

写真1
転炉スラグ施用キュウリ圃場
写真2
キュウリ栽培における意見交換
写真3
転炉スラグ施用雨よけホウレンソウ
写真4
ホウレンソウ栽培における意見交換

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