ストロビルリン系殺菌剤(QoI剤)耐性イネいもち病菌の対策マニュアル

要約

効果の高い耐性菌対策として、QoI 剤箱処理剤の使用面積割合および連用年数を10~30%および3~5年以内に制限、採種圃場の防除徹底などでの保菌率の低減化を推奨する。具体的な数値目標と対策のフローを提示することで、確実に耐性菌の発生を抑制する。

  • キーワード:薬剤耐性菌、イネいもち病菌、QoI剤、耐性菌検定法、マニュアル
  • 担当: 中央農業研究センター・病害研究領域・抵抗性利用グループ
  • 代表連絡先: 電話 029-838-8481
  • 分類: 普及成果情報

背景・ねらい

ストロビルリン系殺菌剤(QoI剤)は、水稲ではいもち病と紋枯病などの基幹防除剤として普及しているが、2012年以降、QoI剤耐性イネいもち病菌が全国的に発生したことから、実効性のある耐性菌対策の確立が求められている。
イネいもち病は種子伝染性病害であることから、耐性菌対策は都道府県や地域単位で取り組むことが重要である。本マニュアルでは、耐性菌対策の要点とその具体的な数値目標を提示することで、確実に耐性菌の発生を抑制できる技術情報とする。

成果の内容・特徴

  • 耐性菌対策の要点、発生・拡大リスクの分類と対応例、耐性菌検定法などの関連する情報や手法を取りまとめ、「殺菌剤耐性イネいもち病菌対策マニュアル」とする(図1)。
  • 効果の高い耐性菌対策として、(1)QoI剤箱処理剤の使用面積の制限(箱処理剤の使用面積割合を10~30%に制限)、(2)連用の制限(使用面積割合に応じて連用年数を3~5年以内に制限)、(3)種子保菌率の低減化(採種圃場の防除や種子消毒の徹底などで保菌率を低減化)を推奨する(図2)。
  • QoI剤の使用中止期間は、抵抗性誘導剤など作用機作の異なる箱処理剤や本田散布剤のみの体系による防除を行う。
  • 耐性菌対策の一連の作業は、3つのセクション(情報収集と発生予測、モニタリングと耐性菌検定、リスク評価と耐性菌対策)から構成されるフローとして示す(図3)。
  • 「情報収集と発生予測」のセクションでは、「管理区域」におけるいもち病の発生量や薬剤の系統毎の使用面積などの疫学的情報を収集・分析し、管理目標やモニタリング計画を策定する。「管理区域」は、種子や殺菌剤の流通を把握かつ管理可能な区域と定義する。「モニタリングと耐性菌検定」のセクションでは、耐性菌検定法により耐性菌の発生動向を監視する。耐性菌の発生状況に応じ、「リスク評価と耐性菌対策」のセクションで対象薬剤の継続使用か使用中止の判断を行う。

普及のための参考情報

  • 普及対象: 都道府県の関係機関、農薬会社、JA、全農、農薬の卸売業者など
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等: 全国の水稲栽培地域 約150万ha
  • その他:
    1) マニュアルは農研機構のホームページで公開している。
    2) 本マニュアルで示した管理目標を達成するには、都道府県の担当者に加え、すべての関係団体(全農、JA、農薬会社、卸売業者、小売、生産者)を含む枠組みで取り組むことが必要となる。
    3) 三重県は、本マニュアルに沿った採種圃場の防除対策の徹底などの耐性菌対策に取り組んでおり、耐性菌の発生を抑制できている。

具体的データ

図1 マニュアルの表紙(イメージ); 図2 耐性菌対策の管理目標(ポイント); 図3 イネいもち病のQoI剤耐性菌対策のフロー

その他

  • 予算区分: 交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間: 2014~2016年度
  • 研究担当者: 鈴木文彦、芦澤武人、早野由里子、林敬子、光永貴之、笹谷孝英、平八重一之、井上博喜、石井貴明(福岡農総試)、菖蒲信一郎(佐賀農試)、稲田稔(佐賀農試)、鈴木啓史(三重農研)
  • 発表論文等:
    1) Hayashi K et al(2015)JGPP、81:131-135
    2) 早野ら(2015)日植病報、81:141-143
    3) Hayashi K et al(2017)JGPP、DOI: 10.1007/s10327-017-0725-8