土着天敵を活用する害虫管理最新技術集と事例集

要約

圃場内外への天敵温存植物の植栽と天敵に悪影響の少ない殺虫剤の選択によって土着天敵の定着や増殖を促すことにより、薬剤抵抗性を発達させて難防除害虫となっているアザミウマ類やハダニ類等を安定的に管理することができる。

  • キーワード: 土着天敵、ヒメハナカメムシ類、タバコカスミカメ、カブリダニ類、微小害虫
  • 担当: 中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域
  • 代表連絡先: 電話 029-838-8481
  • 分類: 普及成果情報

背景・ねらい

果樹や野菜の重要害虫であるアザミウマ類やハダニ類では、農薬に抵抗性を持つ系統が発生し防除が難しくなっている。新農薬の開発・導入と害虫の抵抗性発達の悪循環からの脱却が望まれる中、これに変わる手段として天敵利用による害虫管理技術の開発に期待が寄せられている。そこで、ナスやネギ等の野菜類やリンゴやカンキツ等の果樹を対象に、地域に生息する土着天敵を活用して害虫の発生を効果的に抑制する技術を開発し、都道府県の農業指導者や天敵利用に関心を持つ生産者向けの「最新技術集」を公表して技術の普及を図るとともに代表的な技術を分かりやすく紹介したパンフレット形式の「事例集」を配布して生産者における天敵利用技術の認知度向上に努める。

成果の内容・特徴

  • 2012?2015年度に実施された農林水産省の委託研究プロジェクト「土着天敵を有効活用した害虫防除システムの開発」の成果である。現地実証試験で高い効果が認められた技術として、ヒメハナカメムシ類やタバコカスミカメの利用を核としたナスのアザミウマ類防除技術、複数種の天敵を利用したシシトウのチャノキイロアザミウマC系統防除技術、カブリダニ類利用による果樹のハダニ類防除技術、コモリグモ類やヒメオオメカメムシ利用による露地ネギのアザミウマ類防除技術、コモリグモ類やコオロギ類利用による水稲の斑点米カメムシ防除技術がある。
  • 土着天敵の利用に際しては、天敵の種類に合わせて温存植物を圃場に配置し(図1)、農薬使用回数を減じるとともに、天敵に影響の少ない農薬のみを選択使用する。天敵が安定して圃場に定着し、増殖することにより薬剤抵抗性を持ち慣行防除で多発するミナミキイロアザミウマ等の害虫の被害を抑制することが可能である(図2)。
  • それぞれの天敵に適した温存植物とその植栽デザイン、既存の防除体系に土着天敵の利用技術を導入する際に必要となる殺虫剤の選択や利用法に関する情報に加え、現地実証試験における害虫被害抑制効果のデータ等を取りまとめた最新技術集(図3左)がインターネット上で公開されており、ダウンロードして利用できる。
  • 土着天敵利用の経験がない生産者にも興味を持ってもらうことを目的に9つの実践事例の概要をパンフレット形式でまとめさらに実践農家の声を掲載した「事例集」(図3右)がインターネット上で公開されており、ダウンロードできるほか、希望者に冊子版を無料配布している(申込先アドレス:koho-narc@naro.affrc.go.jp)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:都道府県試験研究機関、普及指導機関担当者、生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国の施設栽培のナスとシシトウ並びに露地栽培のナスを主体に土着天敵利用の拡大を図る。目標普及面積:500ha(ナス全国作付面積の約5%に相当)
  • 天敵利用技術の導入にあたっては、使用を避けるべき薬剤の種類と期間を生産者に十分周知、徹底することが重要である。また、地域の試験研究機関や指導普及機関等の協力を得て、対象害虫や地域に生息する土着天敵の種類をあらかじめ確認することが望ましい。

具体的データ

図1 露地ナス圃場における天敵温存植物の植栽例(左:植栽デザイン;右:圃場周囲に配置されたオクラとソルガ; 図2 殺虫剤管理の違いがミナミキイロアザミウマ被害とヒメハナカメムシ類発生に及ぼす影響(奈良県露地ナスの事例;青い三角は非選択、赤い三角は選択性殺虫剤の散布を示す。); 図3 土着天敵を活用する害虫管理最新技術集(左)と事例集(右)

その他

  • 予算区分: 交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間: 2012?2016年度
  • 研究担当者:
    飯田博之、井原史雄、大塚彰、岸本英成、北村登史雄、楠本良延、河野勝行、後藤千枝、真田幸代、下田武志、武田光能、田中幸一、土`田聡、外山晶敏、長坂幸吉、中野亮、馬場友希、日本典秀、本多健一郎、松村正哉、三代浩二、望月雅俊、守屋成一、柳沼勝彦、安田耕司、屋良佳緒利、渡邊朋也、樋口博也、舟山健(秋田県果樹試)、荒川昭弘(福島県農総セ)、川口悦史(福島県農総セ)、佐々木正剛(福島県植防協会)、瀧田克典(福島県観光交流局)、星博綱(福島県農総セ)、牛尾進吾(千葉県農総研)、大谷徹(千葉県農林水産部)、大井田寛(千葉県農総研)、河名利幸(千葉県農総研)、清水健(千葉県農総研)、武田藍(千葉県農総研)、中井善太(千葉県農総研)、石川隆輔(静岡県農技研)、市原実(静岡県農技研)、稲垣栄洋(静岡県農技研)、井鍋大佑(静岡県農技研)、片井祐介(静岡県農技研)、片山晴喜(静岡県農技研)、金子修治(静岡県農技研)、白鳥孝太郎(静岡県農技研)、多々良明夫(元静岡県農技研)、土田祐大(静岡県賀茂農林事務所)、土井誠(静岡県農技研)、外山祐介(静岡県農技研)、中野亮平(静岡県農技研)、増井伸一(静岡県農技研)、松野和夫(静岡県農技研)、宮田祐二(静岡県農技研)、大仲桂太(三重県農業研究所)、鈴木賢(三重県農業研究所)、西野実(三重県農業研究所)、井村岳男(奈良県農研セ)、今村剛士(奈良県農研セ)、神川諭(奈良県農研セ)、国本佳範(奈良県農研セ)、竹中勲(奈良県農研セ)、吉村あみ(奈良県農研セ)、阿部成人(徳島農総技セ)、秋月学(徳島農総技セ)、中野昭雄(徳島農総技セ)、松尾和典(徳島農総技セ)、松﨑正典(徳島農総技セ)、伊藤政雄(高知農技セ)、下元満喜(高知農技セ)、中石一英(高知県環境農業推進課)、安達鉄矢(高知農技セ)、近森ちさこ(高知農技セ)、中平知芳(高知農技セ)、垣内加奈子(高知農技セ)、園田昌司(元岡山大/宇都宮大)、山下純(岡山大)、大野和朗(宮崎大)
  • 発表論文等:
    1) 農研機構(2016)「土着天敵を活用する害虫管理技術 最新技術集」・「土着天敵を活用する害虫管理技術 事例集」(2016年8月30日)
    2) 農林水産省農林水産技術会議事務局(2017)「土着天敵を有効利用した害虫防除システムの開発」、研究成果第567集