生育後期重点施肥によるコムギの収量性の向上とその乾物生産過程

要約

基肥施用量を減らし、茎立期追肥を増施する生育後期重点施肥により、茎立期以降の葉面積指数、登熟後半の純同化率、有効茎歩合および収穫指数が高まり、コムギの収量を22~45%高めることができる。

  • キーワード:コムギ、生育後期重点施肥、多収、さとのそら
  • 担当:中央農業研究センター・生産体系研究領域・東海輪作体系グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2025年におけるコムギの生産量目標95万トンを達成するためには、都府県において現在320kg/10a前後の平均収量を20~30%高めることが求められる。そこでヨーロッパ等のコムギ多収国で行われている生育後期重点型の施肥体系が我が国の温暖地の水田転換畑においても多収技術となり得るかについて、耐倒伏性の新品種「さとのそら」を供試して検証を行うとともに、その乾物生産過程を解析することでコムギの安定多収生産技術開発のための基礎的知見を集積する。

成果の内容・特徴

  • 基肥施用量を減らし、茎立期追肥を増施する生育後期重点施肥により、コムギ「さとのそら」の収量は、慣行の基肥重点施肥に比べて22~45%増加し、総窒素施用量を19kg/10aまで増やした4-2593区では600kg/10a以上の多収となる。収量の増加は1000粒重および1穂粒数の増加、有効茎歩合の向上、および播種量が同じであれば穂数が増加する結果である(表1)。
  • 生育後期重点施肥を行ったコムギの地上部総乾物重は、茎立期~止葉抽出期頃までは慣行施肥区より小さいが、穂揃期頃以降に逆転し、成熟期には有意に高くなる。また、収穫指数も高い(図1)。
  • 生育後期重点施肥を行ったコムギでは、葉面積指数(LAI)が止葉抽出期頃以降大幅に高まる(図2)。これは地上部総乾物重が増加したことに加えて、葉身への乾物分配割合 : 葉重比、および葉身乾物重あたりの葉面積 : 比葉面積の両方が高くなった結果である。一方で、純同化率(NAR)は登熟期後半まで高く維持される(図2)。
  • 表1に示すとおり、生育後期重点施肥では、機械収穫適期の遅れ、外観品質の低下、子実タンパクの過剰などの改善すべき点がある。

成果の活用面・留意点

  • 三重県津市の排水性が比較的劣る水田転換畑において、11月中旬に小明渠浅耕播種機を用いて播種した成果である。作土の可給態窒素量(熱水抽出性窒素)は、4.2~5.1mg/100gである。
  • 上記以外の改善すべき点として、土壌pHが低下すること、うどんこ病やさび病の発生を助長することがある。
  • 基肥重点のまま追肥量を増やすことでも収量は一定程度増加するが、同じ総窒素施肥量であれば、生育後期重点施肥で増収率がより高いことは、事前の試験で確認している。

具体的データ

表1 生育後期重点施肥と播種量の違いがコムギの収量、収量構成要素、品質、収穫期に及ぼす影響(2か年平均)?図1 生育後期重点施肥と播種量の違いがコムギの生育期間ごとの乾物増加量と収穫指数に及ぼす影響(2カ年平均).?図2 生育後期重点施肥と播種量の違いがコムギ生育期の葉面積指数(LAI)と純同化率(NAR)に及ぼす影響(2015年試験)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2015年度
  • 研究担当者:渡邊和洋、中園江、谷尾昌彦、江原宏(三重大生物資源(現名古屋大農))
  • 発表論文等:渡邊ら(2016)日作紀、85(4):373-384