カメムシ類害虫に対する水銀灯の強い誘引性とその要因

要約

水銀灯は白熱灯に比べ、多くのカメムシ種に対し強い誘引性を示し、その程度は種により異なる。果樹を加害するカメムシ類は特に水銀灯に強く誘引されるが、それは水銀灯が放射する紫外域の強い光強度に起因する。

  • キーワード:走光性、予察灯、果樹カメムシ、ミナミアオカメムシ、ダイズ、水稲
  • 担当:中央農業研究センター・水田利用研究領域・北陸病害虫防除グループ
  • 代表連絡先:電話025-526-3210
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

害虫類の発生調査は、圃場の巡回調査などとともに、害虫の走光性を利用した予察灯による調査が実施されている。予察灯の光源としては、従来、60W型白熱灯(54W)または水銀灯(100W)のどちらかが使用されている。水銀灯は多くの昆虫種に対し強い誘引性を示すが、誘引性が光源のどのような特性に起因するかについては明らかでない。そこで、走光性を示す代表的なカメムシ5種(ダイズや水稲を加害する広食性のミナミアオカメムシNezara viridulaとアオクサカメムシNezara antennata、および果樹を加害するカメムシ類であるチャバネアオカメムシPlautia stali、ツヤアオカメムシGlaucias subpunctatus、クサギカメムシHalyomorpha halys)を対象として白熱灯と水銀灯の誘引性を明らかにし、さらに、両光源の波長および光強度がカメムシ類の誘引に与える影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 水銀灯または白熱灯を光源とする予察灯型の簡易トラップにおけるカメムシ類の誘殺数は、水銀灯が白熱灯に比べ5.6~304.6倍と圧倒的に多く、その効果の程度は種により異なる(表1)。
  • 白熱灯と水銀灯の光子(フォトン)数を比較すると(図1)、カメムシ類の可視領域である250~650nmの範囲では、水銀灯は白熱灯の0.8倍の光強度であるが、カメムシ類に対し強い走光性を示す250~400nmの紫外域では、水銀灯は白熱灯の16倍の光強度を示す。このことから、この高い紫外光強度が、水銀灯のカメムシ類に対する強い誘引性の一因と考えられる。
  • 紫外線除去フィルターの被覆により紫外領域を9割、全体の光強度としては3割落とした光源では、ツヤアオカメムシやチャバネアオカメムシといった果樹カメムシ類で、誘殺数が無被覆区に比べ1/3~1/5と大幅に減少する(図2)。一方、NDフィルターの被覆により水銀灯の各波長域の光強度を平均的に3割落とした光源では、カメムシ類の誘殺数に有意な減少は認められない(図2)。これらのことから、水銀灯の果樹カメムシ類に対する強い誘引性は、紫外域の強い光強度に起因する。

成果の活用面・留意点

  • 白熱灯や水銀灯は、今後生産が終了し、将来的に入手が困難になる可能性が高いことから、本成果は代替の予察用光源を作成する際の基礎知見となる。
  • 果樹カメムシ類は紫外光に対する依存性が高いと考えられることから、これらの種を対象とした予察灯を作成する場合には、紫外光を含んだ光源の利用が望ましい。

具体的データ

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(収益力向上)
  • 研究期間:2014~2016年度
  • 研究担当者:遠藤信幸、弘中満太郎(浜松医大)
  • 発表論文等:遠藤、弘中(2017)九病虫、63:55-61