炊飯米の硬さと粘りを微調節するイネ育種素材とDNAマーカー

要約

胚乳デンプン難糊化性変異系統AGE1およびAGE2はデンプン分枝酵素BEIIb遺伝子の機能が低下しており、DNAマーカーを用いてインディカ米型デンプン合成酵素SSIIa遺伝子と組み合わせることで、炊飯米を段階的に硬くし、粘りを抑えることができる。

  • キーワード:炊飯米物性、アミロペクチン、業務用米、DNAマーカー
  • 担当:中央農業研究センター・作物開発研究領域・育種素材開発・評価グループ
  • 代表連絡先:電話025-526-3245
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

国内で年間に消費される米800万トンのうち、4割に相当する320万トンが外食・中食などの業務用途で消費されている。工場等における大規模な炊飯では、ご飯が炊飯器具や容器に付着すると作業性が低下するため、粘りを抑えた硬めの米が求められている。また、カレー、牛丼、炒飯などの具材をからめて食べるメニューでも、べた付きの少ない硬めのご飯が好まれる。このような市場ニーズに応えるため、炊飯米を硬くし、粘りを抑える育種素材とDNAマーカーを開発する。

成果の内容・特徴

  • イネ「日本晴」変異系統AGE1(Tos17ミュータントパネルID:NE7134)およびAGE2(同:NE9195)は、胚乳デンプンが尿素溶液に溶解しにくい性質を指標として選抜され、デンプンの糊化温度が通常の米よりそれぞれ10°Cおよび6°C高く、炊飯米が糊化しにくい。また、その効果はAGE1のほうが大きい。
  • AGE1およびAGE2は、いずれもデンプン分枝酵素BEIIb遺伝子の変異系統である(図1)。AGE1では不活性型酵素が米に蓄積し、AGE2では活性型酵素が半量に減少する。
  • デンプンの主成分、アミロペクチンは、ブドウ糖が枝分かれしながら鎖状に連なった分子で、その分枝状態は米の硬さと粘りに影響する。AGE1およびAGE2変異系統では、アミロペクチンの短い枝を付与するBEIIbの活性が低減することで、長い枝の比率が増加し、米デンプンの結晶性が高まるため、糊化しにくくなる。
  • AGE1およびAGE2の炊飯米を硬くする効果は、EM10等のBEIIb完全欠失型変異(amylose-extender)系統よりも弱く、食感を損ねない程度に硬く、粘りの少ない米飯となる。
  • AGE1とAGE2の変異を判別するDNAマーカーは図2の通りである。同様に糊化を抑える効果のあるインディカ米型デンプン合成酵素SSIIa遺伝子(判別マーカーを図2に示す)を人工交配により組み合わせることで、炊飯米の硬さと粘りを段階的に調節できる(図3)。米飯を硬くし粘りを抑える効果は、炊飯後放冷することでより顕著になる。
  • AGE1およびAGE2変異系統、それらの変異箇所で作成されたDNAマーカーは、業務用米品種育成の際の炊飯米の硬さと粘りの微調節に利用できる。

成果の活用面・留意点

  • 今回利用した、炊飯米を硬くし粘りを抑える形質は、AGE1およびAGE2に由来する形質であることから、開発したDNAマーカーは同系統に由来する派生系統の選抜のみに利用できる。
  • AGE1の変異遺伝子の検出では、1塩基多型箇所を認識するプライマーを用いるため、3 ́→5 ́エキソヌクレアーゼ活性を持たないPCR酵素を使用する必要がある。
  • 米デンプンの糊化特性は、品種の遺伝背景や登熟気温等の栽培条件の影響を受けるため、本DNAマーカーを用いて開発された品種・系統において、炊飯米物性等の食味関連形質に対する影響を個別に評価する必要がある。
  • 本変異は米デンプン合成に影響を及ぼすため、登熟気温等の栽培条件によっては、粒重等の収量性や玄米外観に影響を及ぼす可能性がある。

具体的データ

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2013~2017年度
  • 研究担当者:山川博幹、中田克、宮下朋美、高木宏樹(石川県立大)、黒田昌治、山口武志、梅本貴之
  • 発表論文等:Nakata M. et al. (2018) Plant Biotechnol. J. 16(1):111-123 DOI:10.1111/pbi.12753