無菌条件下でイネ稲こうじ病菌の厚壁胞子をイネ根に接種する方法

要約

人工培養したイネ稲こうじ病菌の厚壁胞子懸濁液を無菌育苗したイネ根に浸漬接種する。本接種法は、根への感染過程を指標に、防除資材のスクリーニングや各種物質の作用を評価するために活用できる。

  • キーワード:イネ稲こうじ病、厚壁胞子、浸漬接種、イネ根
  • 担当:中央農業研究センター・病害研究領域・抵抗性利用グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-8481
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネ稲こうじ病は、穂に暗緑色の病粒が形成される病害である。近年、全国的に発生量が多く、病粒片混入による規格外米の発生や飼料用稲での多発生が問題となっている。病粒は収穫時に圃場に落下してこれに含まれる厚壁胞子が越冬して伝染源となり、田植え後のイネ根が感染するが、その感染過程は明らかになっていない。そこで、無菌条件下で観察するための接種法を確立し、土壌処理資材や農薬等のスクリーニングに資する。

成果の内容・特徴

  • 玄米培地にイネ稲こうじ病菌(含菌オオムギ粒)を移植して培養すると、1ヶ月後に厚壁胞子が得られる(図1)。
  • 無菌培養したイネ幼苗をシャーレ内に入れ、培養厚壁胞子の懸濁液に根が浸るようにするだけで接種できる(図2)。
  • 付着した厚壁胞子は接種後4日目までに発芽し、根表皮の細胞と細胞の間隙から侵入する(図3)。根毛には侵入しない。
  • 接種後11日目には、イネ根を取り巻くように発達して菌糸のネットワークを形成する(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 厚壁胞子は培養開始から5ヶ月間経過しないとイネ根上で発芽しないため、厚壁胞子のストックをあらかじめ用意する。なお、厚壁胞子は少なくとも1年間は生存する。
  • 形成された厚壁胞子を植え継ぐことで接種源が容易に維持できる。
  • 薬剤や土壌処理資材を厚壁胞子懸濁液に混合した後、イネ幼苗を浸漬して接種することで、発芽から感染までの過程におけるこれら剤の効果を評価できる。

具体的データ

図1 玄米培地で人工培養した厚壁胞子 矢印:黄色い皮膜が裂開し厚壁胞子が露出;図2 イネの育成から接種までの手順(上)と接種幼苗(下);図3 イネ根の表皮細胞間隙から侵入する菌糸(接種4日後);図4 イネ根の表皮を分枝(左)、侵入(中)および融合(右)しながらネットワークを形成する菌糸(接種10~11日後)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:芦澤武人、Kunlaya Prakobsub(タイ王国)
  • 発表論文等:Kunlaya P. and Ashizawa T. (2017) J.Gen.Plant Pathol. 83:358-361