トマト種子における植物検疫対象のポスピウイロイド全8種の網羅的検査法

要約

ナス科植物に被害を及ぼす国内未発生種を含む8種のポスピウイロイドを網羅的に検出し、さらに種識別を可能とする検査法である。本法は、国際的に検疫対象とされるポスピウイロイド全種を対象としてトマト種子からの検出が可能である。

  • キーワード:ポスピウイロイド、リアルタイムPCR、トマト、種子、苗
  • 担当:中央農業研究センター・病害研究領域・リスク解析グループ
  • 代表連絡先:029-838-8916
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

ポスピウイロイドは、国内未発生種を含む9種のウイロイドからなり、そのうち8種は、トマト・ジャガイモ等のナス科作物に経済的被害を引き起こす。これらウイロイドの多くが種子伝染し、観葉植物では無病徴感染するため、発生地域の拡大が懸念されている。特に感染種子の流通による拡散は、国際的な問題とされている。そのため、これら全8種の国内への侵入防止及び輸出を含めた感染植物の流通阻止のため、植物検疫当局及び種苗会社等では、これらウイロイド8種の宿主となりうる種苗類の検査技術を必要としている。我々は、すでにそれらポスピウイロイド8種を網羅的に検出し、さらに種識別を可能とする新たな検出法を開発している(2017年度研究成果情報http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/carc/2017/carc17_s15.html)。本研究では、その技術を応用し、トマト種子から植物検疫対象のポスピウイロイド全種を検出可能な検査法を開発すると共に普及促進を図る。

成果の内容・特徴

  • この検査法は、国際的な種苗取引で問題となるポスピウイロイド全8種(表1)をオランダの検査機関であるNaktuinbouwが採用する検査法に比べ、効率的かつ網羅的に検出・同定できる(図1)。本法は、植物検疫における輸出入検疫だけでなく、種苗メーカーにおける品質管理として当ウイロイドの検査をする際にも有効である。
  • Naktuinbouwの検査法でウイロイド種を同定するためには、ウイロイド検出後にシークエンス解析等を必要とするため1.5日間程度を要するが、本法は異なる2種のリアルタイムPCRを組み合わせることにより種同定までを約6.5時間で完了できる(図1)。
  • 輸出検疫で要求される検査水準において利用した場合、トマト種子400粒に1粒のウイロイド汚染種子を含むサンプルからウイロイドを検出することができる(図2)。
  • 本法の検出感度はNaktuinbouwの検査法とほぼ同等かそれ以上であり、操作性が高く、作業時間を短縮することができる(表2)。また検査に要する費用を削減でき、検出から種同定までを1台のリアルタイムPCR装置で実施できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:種苗類の輸出入検疫に関わる植物防疫所、並びに国内種苗メーカー
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:植物防疫所の輸出検査マニュアルに採用され、植物防疫所の5本所(横浜、神戸、名古屋、門司、那覇)、並びに主要空港の4支所(成田、中空、関空、福岡)に実装済み、さらに国内の大手種苗メーカー3社以上で採用予定。
  • その他:本法は、他のポスピウイロイドの宿主植物の種苗にも応用可能である。また、トマト種子からのRNA抽出にはQIAGEN RNeasy Plant Mini kitを採用しているが、夾雑物を多く含むトマト品種では抽出法を検討する必要がある。

具体的データ

表1 本法により検査可能なウイロイド種,図1 本法とNaktuinbouwが採用する検査法との作業工程比較,表2 本法とNaktuinbouwが採用する検査法の比較,図2 本法を用いたトマト種子からの検査フロー図、並びに種子からの検出例

その他

  • 予算区分:委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、その他外部資金(レギュラトリーサイエンス)
  • 研究期間:2011~2017年度
  • 研究担当者:栁澤広宣、松下陽介、津田新哉、志岐悠介(横浜植防)、大石盛伝(横浜植防)、高上直樹(横浜植防)
  • 発表論文等:Yanagisawa H. et al. (2017) Eur. J. Plant Pathol. 149:11-23