オオバのシソサビダニおよびシソモザイクウイルス検出マニュアル

要約

オオバ(青シソ)のモザイク病の病原体であるシソモザイクウイルスと、その媒介虫であるシソサビダニを、それらの遺伝子の塩基配列情報に基づき、的確かつ簡易に検出・診断する手法を、分かりやすく解説するマニュアルである。

  • キーワード:シソサビダニ、シソモザイクウイルス、フシダニ類、PCR、LAMP
  • 担当:中央農業研究センター・病害研究領域・病害防除体系グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

オオバの施設栽培では、シソモザイクウイルス(Perilla mosaic virus, PerMV)によるモザイク病と、その媒介虫であるシソサビダニ(Shevtchenkella sp.)によるさび症の発生により、全国で推定10億円/年を超える被害を生じていた。PerMVによるモザイク病は、別の病害や生理障害との識別が困難であり、また、媒介虫のシソサビダニは極めて小さく肉眼で認識できない。このため30年以上にわたり原因が不明のままで、防除が困難であった。そこで、polymerase chain reaction (PCR)法またはloop-mediated isothermal amplification (LAMP)法に基づき、PerMVおよびシソサビダニを簡易かつ的確に検出・診断する手法を開発する。また、その手順を分かりやすく解説するマニュアルを作成し、公開する。

成果の内容・特徴

  • オオバのシソサビダニとPerMVを検出・診断する手法を解説するマニュアルであり、農研機構ウェブサイト上で公開している(図1左)。
  • シソサビダニは、PCR法またはLAMP法により検出する(図1右、表1)。シソサビダニDNAの抽出は、PCR法では、DNeasy Blood & Tissue Kit (QIAGEN)を用いる。LAMP法では、寄生が疑われるオオバの葉をエタノール中でかく拌し、エタノールに含まれる虫体を遠心操作により回収し、煮沸することで行う(マニュアル参照)。
  • PerMVは、RT-PCR法またはRT-LAMP法により検出する(図1右、表1)。RT-PCR法では、鋳型とするRNAの抽出法として、(1)試薬を用いた精製、(2)チューブキャプチャー法による簡易精製、(3)最も簡易な針刺し法、の3つから、目的(検出感度・検査数量等)に応じて選択する。RT-LAMP法では、検出対象となる葉の病斑部位を注射針で数回刺してRNAを付着させた後、RT-LAMP反応液に浸し、63°C で1時間反応させる。栽培圃場現地での診断も可能である。
  • PerMVを検出するRT-PCR法およびRT-LAMP法に用いるプライマー(表1)は、主要産地(茨城、愛知、高知、大分)のPerMV分離株の遺伝的多様性を考慮して設計されている(図2)。
  • (RT-)PCR法では、アガロースゲル電気泳動で約400bpの増幅産物により判定する。(RT-)LAMP法では、濁度計による判定は、30分後に濁度0.1以上で陽性と判定する(図2)。反応液にマラカイトグリーン(終濃度0.008%)を加えた場合、陽性では水色に変化する(図3)。

成果の活用面・留意点

  • シソサビダニまたはPerMVが検出された場合、防除技術を記したマニュアル「オオバのシソサビダニおよびモザイク病防除マニュアル(全国共通版)第3版)」を参照する。同じホームページからダウンロードできる。より的確なサンプリングと診断のためにも同マニュアルを参照。
  • LAMP法およびRT-LAMP法の反応は、60~65°C の間であれば問題ない。65°C 程度に加温し、冷めないように保温した温水中等で反応させることも可能である。
  • 本マニュアルには、PCR法を用いてサビダニを含むフシダニ類全般を検出する手法も掲載されており(図1右、表1)、他作物でのフシダニ・サビダニの検出・同定法として活用できる。

具体的データ

図1 オオバのシソサビダニおよびシソモザイクウイルス(PerMV)検出マニュアル(第2版),表1 シソサビダニ、PerMV及びフシダニ類全般の検出に用いるプライマーの配列及び反応条件,図2 PerMVを検出するRT-LAMP法における濁度の経時変化,図3 LAMP法によるシソサビダニ検出の判定

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2011~2018年度
  • 研究担当者:久保田健嗣、宇杉富雄、千秋祐也、冨髙保弘、津田新哉、広瀬拓也(高知農技セ)、森田泰彰(高知農技セ)、島本文子(高知農技セ)、清遠亜沙子(高知農技セ)、岡田知之(高知農技セ)、下元祥史(高知農技セ)、沖友香(高知農技セ)、下元満喜(高知農技セ)、中平知芳(高知農技セ)、下八川裕司(高知農技セ)、久家工人(高知中央東農振セ)、横山克郎(高知中央東農振セ)、山本正志(高知中央東農振セ)、谷岡賀子(高知中央東農振セ)、市川耕治(愛知農総試)、鈴木良地(愛知農総試)、田中はるか(愛知農総試)、天野淳二(愛知農総試)、松本祐保(愛知農総試)、恒川健太(愛知農総試)、武山桂子(愛知農総試)、堀川英則(愛知農総試)、伊藤涼太郎(愛知農総試)、大橋博子(愛知農総試)、後藤英世(大分農水研指導セ)、若月洋(大分農水研指導セ)、山崎修一(大分農水研指導セ)、姫野和洋(大分農水研指導セ)、田中啓二郎(大分農水研指導セ)、松本翔太(大分農水研指導セ)、上遠野冨士夫(法政大)、多々良明夫(法政大)、鍵和田聡(法政大)
  • 発表論文等: