Pectobacterium carotovorum subsp. brasilienseによるジャガイモ黒あし病の発生

要約

2013年および2015年に北海道十勝地方で発生した地際部の腐敗症状を示すジャガイモから分離された細菌は、細菌学的性状や分子生物学的解析結果から、国内未報告菌種のPectobacterium carotovorum subsp. brasilienseである。

  • キーワード:種いも、種いも伝染性、細菌病、国内初発生
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・病虫害グループ
  • 代表連絡先:電話 096-242-7762
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、種いも生産ほ場において、塊茎や地際部の腐敗を引き起こす種いも伝染性細菌病害のジャガイモ黒あし病(以下黒あし病)の発生が報告され、種いもの安定供給が脅かされる事態となっている。日本国内では、これまでジャガイモ黒あし病の病原細菌として3菌種(Pectobacterium carotovorum subsp. carotovorum [以下Pcc]、P. atrosepticum [Pa]、Dickeya sp. [Dsp])が記載されている。しかしながら、2013年と2015年に北海道十勝地方で発生した地際部の腐敗症状を示すジャガイモから分離された細菌は3菌種のいずれにも該当せず、従来の簡易検定では診断できない。新菌種の可能性が考えられるため、分離細菌の細菌学的性状や分子生物学的解析を行い、菌種の同定を行う。

成果の内容・特徴

  • 2013年および2015年に地際部の腐敗症状を示すジャガイモから分離された細菌5株(kbs-1、kbs-2、pcbm-1、pcbm-2、pcbm-3)を、それぞれ健全塊茎に接種し、ほ場で栽培すると、いずれも塊茎の腐敗を伴う病徴が再現され、接種菌が再分離される(図1)。
  • 分離された細菌5株を供試菌株として、細菌学的性状を調べると、全てグラム陰性、OF試験はF型で、ジャガイモ塊茎腐敗能を有するが、キングB培地上で蛍光色素を産生せず、YDC培地上で青色色素をいずれも産生しない。またインドールを生成するが、α-メチル-D-グルコシドから酸を生成せず、37℃条件下で生育する(表1)。これら5菌株の性状はP. carotovorum subsp. brasiliense(以下Pcb)と一致し、日本国内で報告されているその他の黒あし病菌と異なる。
  • 供試菌株について、Pcb特異的プライマー(BR1f/L1r; Duarte et al. 2004)を用いてPCR法を行うと、いずれも322bpの特異的断片が増幅される(図2)。
  • 供試菌株のハウスキーピング遺伝子(acnAgapAicdAmdhproAmtlDpgi)の塩基配列に基づく多遺伝子座配列解析(MLSA)法を行うと、これら5菌株は全てPcbと同一のクレードを形成する(図3)。
  • 以上の結果から、これら供試菌株は全てPcbと同定される。Pcbによるジャガイモ黒あし病の発生は、国内初確認である。

成果の活用面・留意点

  • 今後、黒あし病が疑われるジャガイモ株の診断に際しては、既報の黒あし病菌3菌種(Pcc、PaおよびDsp)に加え、Pcbを検定対象に追加して行う必要がある。
  • Pcb特異的プライマー(BR1f/L1r)を用いたPCR法により、本病原細菌は検出可能である。
  • Pcbはブラジルで初めて発生が報告され、その後、南アフリカ、ニュージーランド、オランダ、ケニア、スイスなどで黒あし病菌として報告されている。

具体的データ

図1 kbs-1を種いも接種したジャガイモで観察される地際部の腐敗症状;図2 Pcb特異的プライマー(BR1f/L1r)を用いたPCR法による供試菌株の電気泳動結果;図3 供試菌株と黒あし病菌各菌種のハウスキーピング遺伝子塩基配列を用いた多遺伝子座配列解析法に基づく分子系統樹;表1 供試菌株の代表的な性状

その他

  • 予算区分:競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2015~2016年度
  • 研究担当者:藤本岳人、安岡眞二(道総研)、中山尊登、青野桂之、大木健広、佐山充、眞岡哲夫
  • 発表論文等:Fujimoto T. et al. (2016) Plant Dis. 101:241 (doi:10.1094/PDIS-06-16-0928-PDN)