放牧草地の被食量推定式の検討と改良

要約

放牧地の草量変化から被食量を推定する既存式の論理的解析により、推定の基礎となる植物成長速度関数と被食速度関数を明らかにする。合理的と考えられる両速度関数を組み合わせることで新たな被食量推定式を導出できる。

  • キーワード:成長速度、被食速度、草量、放牧、禁牧
  • 担当:北海道農業研究センター・酪農研究領域・放牧・草地管理グループ
  • 代表連絡先:電話011-857-9212
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

放牧家畜による被食量を把握することは、放牧地の生産力の推定や、家畜への栄養要求量の充足を考慮するためにも有用である。近年では、無人航空機による空撮技術の発展に伴い、放牧地の草量を空撮画像から簡易・精密・広範囲に測定できる可能性も高まっている。しかし、草量変化から被食量を求める場合、その考え方には実測が困難な部分が含まれているので、実測可能な値からその部分を推定する必要がある。
まず、既存の被食量推定式について、前提となる植物の成長速度関数と被食速度関数を整理する。次いで、合理的と考えられる速度関数を種々仮定し、新たな被食量推定式を導出する。さらに、既存の報告データに対する適合度を既存推定式と新規推定式で算出し比較する。また、速度関数の妥当性や推定式を導出する上での限界点、および実測上の限界点と実用上の妥協点を提示する。

成果の内容・特徴

  • 放牧地の草量変化から被食量を推定するための概念を原理的な形で図解する(図1)。被食量は草の減少分と草の成長分との和となるが、後者の実測は困難なので、妥当と考えられる植物の成長速度関数と被食速度関数を仮定して被食量推定式を導出し、実測可能な値、たとえば禁牧地点の放牧後草量等で置換する必要がある。
  • 既存の被食量推定式において、仮定される植物の成長速度関数や被食速度関数はかなり単純で、特に成長速度関数は定数ないし牧草量の1係数1次関数である。ただし、BoschやLantingaの被食量推定式では、放牧地点と禁牧地点の成長速度として異なる関数を仮定する(表1)。
  • 成長速度と被食速度に種々の関数を仮定して被食量推定式を導出できる。それらの多くは原著に記載されている。本成果情報では、成長速度を草量の1係数1次関数、被食速度を定数と仮定した場合の被食量推定式を紹介する(表1の新規導出)。
  • 検証データ(Linehan&Lowe、1946;Linehanら、1947,1952)に対しては、Boschの式による推定値が最も適合し、次いで新規導出式、Linehanらの式、Lantingaの式、前後差法、内外差法、の順である(図2)。ただし、検証データに対して、前後差法と内外差法を除く被食量推定式の平均二乗誤差間にはほとんど差がない。

成果の活用面・留意点

  • 放牧草地における被食量の測定に際し、推定式を選択するうえで参考となる。また、採用した推定式がどのような仮定の下に成立しているのかを確認できる。たとえば、牧草成長が著しく緩慢な時期であれば、禁牧地点を設定せずに済む前後差法が実用的となる。
  • 一般的に、速度関数が複雑になると、慣例より多くの実測値が被食量推定のために必要となる。たとえば、成長速度が2係数1次関数の場合、環境収容力(維持可能な最大草量)の実測が必要となる。また、成長速度としてロジスティック式(2係数2次関数)を仮定すると、推定式そのものの導出が困難となる。詳細は原著を参照されたい。

具体的データ

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:坂上清一
  • 発表論文等:坂上(2018)日草誌、63(4):199-204