イアコーンサイレージの給与は乳牛の夏季における乳生産性低下を緩和する

要約

飼料の栄養含量を変えずに配合飼料を節減した飼料設計でイアコーンサイレージ(ECS)を給与すると、305日乳量10,000kg水準の酪農家では、6月から9月におけるECS給与時の乳量低下が無給与時の約50%となる。ECS給与は、高泌乳牛の夏季の乳生産性低下を緩和する。

  • キーワード:イアコーンサイレージ、夏季、泌乳成績、採食量、酪農家
  • 担当:北海道農業研究センター・酪農研究領域・自給飼料生産・利用グループ
  • 代表連絡先:電話011-857-9212
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

飼料用トウモロコシの子実、芯と外皮のみを調製するイアコーンサイレージ(ECS)が北海道内を中心に普及しつつある。ECSを恒常的に給与する酪農家からは、嗜好性が良好で夏季でも採食量が低下せず、乳量・乳成分を損なわないという感想が聞かれる。そのような生産現場での評価を定量化することは、ECSの普及拡大上、重要な情報となる。一方で、酪農家における日々の管理作業の中で採食量を測定することは困難である。そこで、酪農家における乳用牛群能力検定成績(乳検成績)の解析に基づき、ECS給与が夏季における乳生産性低下を緩和する効果を生産現場での実態に基づき評価する。

成果の内容・特徴

  • 2008年にECS利用を始め、2014年からECSを含むTMRを通年調製給与している北海道道北のTMRセンターでは、ECS給与量は年間を通じて1頭1日当たり概ね1~1.5kg(原物)とし、配合飼料を約2kg減らすとともに、牧草サイレージ、トウモロコシホールクロップサイレージの量を調整する飼料設計としている(図1)
  • 当該センター利用酪農家のうち、305日乳量が平均10,000kgを超える3戸(経産牛70~80頭規模のつなぎ飼い2戸および同150頭規模のフリーストール1戸)では、一般的な傾向と同様に乳量、乳成分率が夏季(6~9月)は低下するが、ECS無給与期(2005~2007年)と通年給与期(2015・2016年)では、夏季の平均気温はほぼ等しいにもかかわらず(それぞれ18.0および17.6°C)(図2)、落ち込み程度が異なる。
  • この落ち込み程度を示す「夏季低下指数」(図3)は、ECS給与期の方が無給与期より小さく、特に管理乳量(2産次、搾乳日数150日、4月分娩を基準とした固形分補正乳量)、脂肪補正乳量(乳脂肪率を4%として換算した乳量、FCM)では、約半分になる(図4)。
  • 以上のように、ECS給与について経験的に認識されている夏季における乳生産性の維持・増進効果が、指数化による定量的な解析によって高泌乳牛群において確認され、ECS給与は夏季の乳生産性を改善する。

普及のための参考情報

  • 普及対象:自給飼料に関心のある酪農家
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:ECS利用可能地域。栽培面積は道内中心に全国で300ha。
  • その他:北海道内の現地試験および所内試験における条件で得られた成果である。ECSにはバーボンウィスキー様の特有な芳香があり、そのため嗜好性が良いと経験的に認識されている。

具体的データ

図1 調査対象農家の給与TMR構成比,図2 調査対象年次における気温の季節変動,図3 ECS給与の有無と泌乳成績の季節変動パターン(管理乳量の例),図4 ECS給与の有無による夏季低下指数の比較

その他

  • 予算区分:その他外部資金(27補正「地域戦略プロ」、28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:青木康浩、宮地慎、上田靖子、根本英子、多田慎吾、矢島昂、篠田優香
  • 発表論文等:青木ら(2018)北畜草会報、6:41-45