牧草の高栄養化とトウモロコシ子実サイレージ(HMSC)利用による乳生産性向上効果

要約

オーチャードグラス-ペレニアルライグラスの出穂始刈り1番草と短間隔(6週間)刈り2番草からなるサイレージ、HMSC等を混合した飼料(TMR)は、出穂期刈りチモシー1番草利用のTMRよりも搾乳牛の採食量と乳生産性を5~12%向上させる。飼料自給率は70%となる。

  • キーワード:HMSC、オーチャードグラス、乳牛、乳生産、出穂始刈り
  • 担当:北海道農業研究センター・酪農研究領域・大規模家畜管理グループ
  • 代表連絡先:電話 011-857-9212
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

酪農経営の安定化と資源循環型乳生産の実現には、高栄養自給飼料生産体系の確立が求められる。一方、北海道の主たる牧草生産体系であるチモシー(TY)の年2回刈りでは、1番草刈取後の再生速度が遅いため雑草の侵入を招きやすく、乳生産への影響が指摘される。そこで、競合力や再生力に優れ、土壌凍結が厳しい地帯を除く道内で利用可能な草種の出穂始刈り・短間隔刈りによる栄養価向上技術を開発する。このため、オーチャードクラス(OG)-ペレニアルライグラス(PR)混播草地の出穂始刈り1番草と短間隔(6週間)刈り2番草からなる牧草サイレージに、トウモロコシ子実サイレージ(ハイモイスチャーシェルドコーン・HMSC)等を混合したTMRを調製して搾乳牛に給与し、産乳性や飼料自給率を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • TMRに調製した牧草の収穫時の生育特性とサイレージの飼料成分を表1に示す。
  • 産乳性に対する原料草の違いならびに粗濃比(粗飼料と濃厚飼料の重量比)の違いを検証するために調製した、3種類のTMRの構成を表2に示す。乾物消化率の値は、OG-PRサイレージを使用したTMRが対照用のTYサイレージを使用したTMRを有意に上回り、サイレージ原料草の草種と刈り取り時期の違いによるTMR栄養価の向上を裏付ける(表2最下段)。
  • TMR栄養価の向上により粗濃比が同じであれば飼料摂取量と日乳量は有意に増加する。また、粗濃比を60:40と高めても、4%脂肪補正日乳量と乳タンパク質率は維持される(表3)。
  • TMR栄養価の向上により飼料効率が改善される。また、粗濃比を60:40に高めた場合、乳中への窒素蓄積量が増え、尿への窒素排泄量が減少するため、窒素の利用効率が改善する。飼料自給率は粗濃比50:50で70%、同60:40で80%に向上し、高い値を示す(表4)。

成果の活用面・留意点

  • OGとPRの栽培が可能な地帯で活用できる。
  • OG-PR混播草地の採草専用利用下におけるPR割合は経年的に不安定な事例が認められる。
  • TMR原料草に出穂始刈りOG-PRサイレージを用いて粗濃比を50:50とした場合、乳脂率は4%以上に維持されるものの、出穂期刈りのTYサイレージ利用の場合よりも相対的に低下する可能性がある。

具体的データ

表1 TMRに調製した牧草の収穫時の生育特性とサイレージの飼料成分,表2 調製した3種のTMRの構成と消化率,表3 TMR別の摂取量と産乳性,表4 TMR別の飼料効率、窒素の利用性、飼料自給率

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(収益力向上)
  • 研究期間:2014~2019年度
  • 研究担当者:須藤賢司、宮地愼、矢島昂、多田慎吾、青木康浩
  • 発表論文等:
    • 宮地ら(2020)日草誌、65:250-256
    • Miyaji M. et al. (2020) Anim. Sci. J. 91:e13376 doi.org/10.1111/asj.13376
    • 矢島ら(2020)日畜会報、91:275-280