試験時大気圧の影響を最小化するエンジン出力や燃料消費率の試験手法

要約

農用ディーゼルエンジンを対象に、大気圧に応じて吸気温度を制御し、大気条件係数(fa)を一定とすることで、試験時大気圧の違いにより生じる出力、燃料消費率のバラツキを最小化できる試験手法である。この手法は、国内外のエンジン試験等に適用できる。

  • キーワード:エンジン試験、エンジン性能、大気条件係数、大気圧
  • 担当:農業技術革新工学研究センター・労働・環境工学研究領域・資源エネルギー工学ユニット
  • 代表連絡先:048-654-7000
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

現在、国内外の試験機関等で用いられている試験時大気圧にかかわらず吸気温度を一定とする従来の試験手法により農用ディーゼルエンジンの性能試験を実施した場合には、試験時大気圧の違いにより、出力や燃料消費率、また排出ガスでは、後処理装置(PM捕集フィルター、酸化触媒)が装備されていないエンジンで、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)及び一酸化炭素(CO)の試験結果に大きなバラツキを生じる。そこで、試験時大気圧(試験機関の標高を含む)の違いにより生じる試験結果のバラツキが小さく、国内外の試験機関等が実施するエンジン試験に適用可能な試験手法を確立する。

成果の内容・特徴

  • 本試験手法は、常に変化する大気圧に応じ、大気圧が高い場合には吸気温度を高く、大気圧が低い場合には吸気温度を低く制御し、faを一定とする試験手法である。なお、faは、公道走行するディーゼル特殊自動車等の試験方法である「原動機車載出力試験(ディーゼル機関)」(TRIAS 99-015-01)や道路運送車両法の保安基準の細目を定める告示別添43「ディーゼル特殊自動車排出ガスの測定方法」などに定められている係数である(表)
  • 本試験手法により出力や燃料消費率を測定した場合に、試験時の大気圧に関係なく、試験結果のバラツキを最小化できる(図1)。これにより、客観性や信頼性の高いデータを得られるため、農業者等が複数のエンジンやトラクタ性能を比較する場合に有益なデータを提供できる。
  • 本試験手法は、原動機車載出力試験(ディーゼル機関)(TRIAS 99-015-01)やOECD TRACTOR TEST CODE 2、農用トラクター(乗用型)型式検査など、吸気温度を制御できる空調装置を装備した国内外の試験機関等が実施するエンジンやトラクタ試験に適用できる。
  • 本試験手法を用いて排出ガス試験を実施する場合、排出ガス規制対象のNOx、PM、CO、炭化水素のうち、PM、CO及びNOxの試験結果のバラツキを従来手法と同等以下にできる場合もあるが、供試エンジンの吸排気方式の違いなどにより効果の傾向が異なること、またfaの影響が小さい場合は、本試験手法による効果がないことに留意が必要である(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:OECDトラクタテスト実施機関等、農業機械メーカー
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:省エネ性能試験実施型式数12型式/年、OECD TRACTOR TEST CODE 2試験実施型式数約60~100型式/年
  • その他:2017年度以降、本試験手法を革新工学センターが実施する農用トラクター(乗用型)等の評価試験制度及び省エネ性能試験に導入する。また、2017年10月に日本で開催されるOECDテストエンジニア会議において、本試験手法の導入を提案する予定である。

具体的データ

表大気条件係数の算出方法;図1大気条件を一定とした場合のエンジン出力、燃料消費率への効果;図2大気条件を一定とした場合のPMに対する効果の違い

その他

  • 予算区分:経常
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:清水一史、西川純、紺屋秀之、梅野覚、藤井桃子、ファン・ダン・トー、塚本隆行、臼井善彦、長澤教夫、手島司、滝元弘樹
  • 発表論文等:
    1)清水ら(2016)農業食料工学会誌,78(1),45-53
    2)清水ら(2016)農業食料工学会誌,78(3),241-247
    3)西川ら(2016)農業食料工学会誌,78(5),432-440