幼若ホルモンセンサーの開発

要約

チョウ目昆虫に固有の血液性幼若ホルモン結合タンパク質(JHBP)に2種類の蛍光タンパク質を導入した幼若ホルモンセンサーは、幼若ホルモン様化合物のJHBP結合を高感度かつ定量的にモニターすることが可能で、新規な害虫防除剤の開発を加速する。

  • キーワード:幼若ホルモンセンサー、幼若ホルモン結合タンパク質、蛍光タンパク質、蛍光共鳴エネルギー移動、幼若ホルモン様化合物
  • 担当:高度解析センター・生体高分子解析チーム
  • 代表連絡先:電話 029-838-7900
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

殺虫剤による害虫防除は安定的な農作物の生産に必須である一方、過去には、環境汚染や人体への毒性を引き起こしてきた歴史がある。また、殺虫剤は害虫の天敵や受粉昆虫などの非標的昆虫に影響が及ぶ場合もある。さらに、近年は既存の殺虫剤に対する抵抗性の発達や難防除害虫の発生などが問題化している。本研究は、既存剤とは異なる作用機構を持つと同時に、人体や環境にやさしい新規害虫防除剤の開発を目指したものである。
新規作用点としてチョウ目昆虫に固有の血液性幼若ホルモン(JH)結合タンパク質(JHBP)を標的に据え、JHBPのリガンド結合をモニターする幼若ホルモンセンサーを開発し、効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • カイコ由来JHBPとJHの複合体の立体構造をX線結晶構造解析と溶液NMR解析により決定した。JHBPがJHを無事に目的の細胞まで送り届ける分子機構は、JHを内部に格納することで外界から完全に隔離して血液中での分解からJHを保護することによる。
  • JHBPがJHを取り込む仕組みを明らかにするために、JHBP単体の立体構造を決定し複合体の立体構造と比較した。単体ではJHが侵入しやすいように結合ポケットの扉(図1の青色ヘリックス)が開いていて、JHが結合するとこの扉を閉じて内部に格納する。
  • JH結合によるJHBPの立体構造変化の情報をもとに、JHBPの本体側と扉ヘリックス側に特性の異なる2種類の蛍光タンパク質を導入して、リガンド結合をモニターする幼若ホルモンセンサーを設計した(図1)。図2に示すとおり、JH結合によって蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)現象が観測され、本センサーは設計通りに作動する。
  • 幼若ホルモンセンサーの汎用性を検討するために、3種類のJH(I、II、III)、および、JH活性の異なる複数のJH類似化合物についてFRET強度を解析した結果、JHおよびその類似化合物のJH活性とFRET強度、並びに、JHBP結合活性には明確な相関がある(図3)。
  • 幼若ホルモンセンサー測定系を高速処理に必須な384穴マイクロプレート用にダウンサイズすることでハイスループットスクリーニングが可能である。

成果の活用面・留意点

  • JHは昆虫特有のホルモンで、ヒトを含む哺乳類や両生類、魚類などは持っていない。このため、今回の研究成果は、昆虫以外には作用しない、安全で環境にやさしい農薬(害虫防除剤)の開発につながると期待される。
  • 今回開発した幼若ホルモンセンサーは、チョウ目昆虫に固有のJHBPを本体基盤とするため、特に、農作物や森林に甚大な被害をもたらすチョウ目害虫に選択性の高い害虫防除剤の開発を加速する。
  • 幼若ホルモンセンサーのヒット化合物は、JHBPと結合して血液中を移動することが可能で、標的細胞や組織までの効率的なドラッグデリバリーシステムが完備されていることになる。
  • 幼若ホルモンセンサーの利用を希望する方には相談の上、提供します。

具体的データ

図1 幼若ホルモンセンサーが作動する仕組み;図2 幼若ホルモンセンサー(5μM)の蛍光スペクトルJH(5μM)存在下(青)と非存在 下(赤)で測定したスペクトルの比較;図3 幼若ホルモンセンサーによるJH及びJH類縁化合物のJHBP結合解析

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2016年度
  • 研究担当者:山崎俊正、塩月孝博、藤本瑞、鈴木倫太郎、土屋渉、黄川田隆洋、菊田慎吾(農工大)
  • 発表論文等:
    1)山崎ら「幼若ホルモンセンサー」特開2016-161420(2016年9月5日)
    2)Suzuki R. et al.(2011)Sci. Rep. 1:133. doi:10.1038/srep00133
    3)Fujimoto Z. et al. (2013) PLoS ONE 8(2):e56261. doi:10.1371/journal.pone.0056261
法人番号 7050005005207