増菌培養とPCR法を組み合わせた土壌からのジャガイモ黒あし病菌検出法

要約

土壌中のジャガイモ黒あし病菌3種(Pectobacterium wasabiaeP.atrosepticumDickeya dianthicola)は、土壌を液体培地LEMで静置培養(25°C、5日間)し、増菌液からDNAを熱抽出後、PCR法に供試することにより簡易に検出できる。

  • キーワード:検出法、細菌病、ジャガイモ黒あし病、土壌、PCR
  • 担当:種苗管理センター・北海道中央農場・業務第1部
  • 代表連絡先:電話096-242-7762
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ジャガイモ黒あし病(以下、黒あし病)は、Pectobacterium属またはDickeya属細菌による病害である。本病害はこれら細菌を保菌した種いもによって広がることが知られているが、種いも伝染のみでは感染経路を説明できない事例がある。ほ場における本病害の発生生態を明らかにするには、土壌中に低密度で存在する黒あし病菌の効率の良い検出法が必要である。寒天平板培地を用いる既報の検出法(谷井、1984)は、工程数が多く煩雑なため多検体の検定が困難である上に、コロニーの識別に専門的な経験が必要である。そこで、増菌培養とPCR法を組み合わせ、国内で確認されている黒あし病菌のうちP.wasabiae(P.carotovorum)(藤本ら、2017)、P.atrosepticum、ならびにD.dianthicolaの土壌からの検出法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 土壌中の黒あし病菌の増菌培養には、ペクチン分解性の細菌を優占的に増殖させる液体培地LEM(Hélias et al.,2012)を用いる。本培地は、他のペクチンを炭素源とする液体培地よりも調製が容易で、かつPCR法と組み合わせることで、黒あし病菌を広く検出できる。
  • 土壌中の黒あし病菌を検出するには、土壌10gにLEM100mLを加え25°C、5日間静置培養した増菌液からDNAを抽出し、PCR法に供試する(図1)。DNA抽出は工程数が少なく、かつTE緩衝液のみで可能である。
  • 培養容器には、チャック付ラミネート袋(ラミジップLZ-10〔生産日本社〕などの自立タイプ、図2)を利用する。三角フラスコで培養するよりも液面が高くなるため、増菌液のサンプリングが容易になり、PCR反応を阻害する土壌の混入を最小限にできる。また、使い捨て容器のため、検定後の試料の処分が容易であり、多検体の調査に適している。
  • 本法の検出限界は、乾土1gあたりP.wasabiaeで101cfu、P.atrosepticumで102cfu、D. dianthicolaで101cfuである(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本手法は、ほ場における黒あし病菌の生態調査に利用できる。土壌からの検出結果と植物体の発病との関係性は現時点で未解明である。
  • ペクチンは製品・ロット間で資化性に違いがあるため、LEMにはPectin Dipecta、AG366(Agdia社)を用いる。
  • LEMの黒あし病菌に対する選択性は完全ではないため、培養後の増菌液には黒あし病菌以外の細菌も含まれる。
  • 上記の3菌種のほかに国内で発生しているジャガイモ黒あし病菌P.carotovorum subsp. brasilienseの土壌からの検出法については、現在検討中である。

具体的データ

その他

  • 予算区分:競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2015~2016年度
  • 研究担当者:青野桂之、中山尊登、藤本岳人、佐山充、大木健広
  • 発表論文等:青野ら(2016)北日本病虫研報、67:85-89