食品加工の程度を見える化するDNA断片化測定技術FRED法

要約

複数のリアルタイムPCR増幅曲線の比較から、ゲノムDNA上で100塩基に1つ以上の切断が生じている割合を理論的に算出し、食品の加工・調理工程によるDNAの断片化の程度を数値化する新規分析技術である。

  • キーワード:加工食品、遺伝子検査、DNA、断片化、測定キット
  • 担当:食品研究部門・食品生物機能開発研究領域・酵素機能ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7991
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

遺伝子組換え作物やアレルゲンの検知、農産物の品種判別などを目的として、加工食品を対象とした遺伝子検査の必要性が高まっている。しかし、加工食品中のDNAは、加熱、加圧、発酵など、様々な処理で断片化するため、加工食品の遺伝子検査は一般的に困難である。そこで、加工食品に対する検査結果の信頼性を評価・保証するため、リアルタイムPCRを用いてDNAの断片化の程度を測定する新しい分析法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 新たに開発したDNA断片化測定技術FRED法(Fragmentation analysis using multiple Real-time PCRs with Equivalent amplification efficiency and Different amplicon sizesの略)は、増幅効率が同等で標的配列の長さが異なる複数のリアルタイムPCRを利用することで、DNAの断片化を測定することができる(図1)。
  • DNAの断片化を数値で表す指標はこれまでにない。そこで、新たにDNA断片化指数(DFI、DNA Fragmentation Indexの略)を定め、断片化の定量的な表現を可能にしている (図1、図2)。DFIは、複数のリアルタイムPCRの増幅曲線の差から、ゲノムDNA上で100塩基に1つ以上の切断が生じている割合を理論的に算出したものである(0以上1以下)。
  • 株式会社日清製粉グループ本社、日本製粉株式会社、株式会社ニッポンジーンとの共同研究により、植物のみを対象とする測定キットと、幅広く動植物全般に適用できる測定キットの2つを開発した(図3)。これらの測定キットに加えて、過年度成果であるサンプルダイレクトDNA分析試薬DirectAce qPCR Mix plus ROX Tube(ニッポンジーン社製)を用意することで、検査機関等で一般的なリアルタイムPCR装置を用いて、FRED法を実施することができる。
  • 様々な生物に共通して存在する18SリボソームDNAを検出対象として選定したことで、様々な食品等試料に適用できる。18SリボソームDNAは生物のDNA中に多コピー存在するため、微量のDNAしか回収できない食品への適用も期待できる。
  • 開発した測定キットは、加工食品からのDNA抽出条件の検討や検査対象品目の選定など、遺伝子検査の各種研究開発段階で利用できる。また、実際の検査の際に、検体から抽出したDNAの状態が分析に適したものかどうか個別に評価するために使用することもできる。他にも、食品の加熱殺菌の有無の判定、加圧等による低アレルゲン化の評価、食品中異物の熱履歴による混入経路推定など、様々な用途への応用が期待できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:食品の遺伝子検査を行う食品関連事業者および検査機関
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国
  • その他:2018年1月に株式会社ニッポンジーンから開発した測定キットがFRED Assay Kitとして発売される。この測定キットを利用することで、特殊な試薬を調製することなく、分析を実施できるため、関係機関でのスムーズな普及が期待できる。

具体的データ

図1 DNA断片化測定技術 FRED法の概要;図2 加工食品模擬試料を分析した結果;図3 開発した測定キット


その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2011~2017年度
  • 研究担当者:真野潤一、高畠令王奈、橘田和美
  • 発表論文等:
  • 1)Mano J. et al. (2017) Food Chem. 226:149-155
    2)真野ら「核酸の損傷の程度の評価方法、食品の加工の程度の評価方法、及び核酸の定量方法」特許第6120279号(2017年4月7日)