細胞の損傷を電気的に解析する理論の応用

要約

Cole-Coleプロットを用いて細胞と等価の電気回路(等価回路)解析法を簡易化することにより、主には青果物の細胞外液中の電解質濃度変化を評価できる。これまでは定性的に行われていた青果物の損傷特性について、簡易・迅速・定量的な評価が可能である。

  • キーワード:生体電気工学、インピーダンス、青果物、物理損傷、数値化
  • 担当:食品研究部門・食品加工流通研究領域・食品流通システムユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8015
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

収穫後の青果物では、輸送や輸出後における物理損傷や棚もちの低下などの品質劣化に関連する問題があるが、それらの品質特性は、主にヒトによる定性的な評価により判断されているのが現状である。そのため、それらの簡便で定量的な評価技術の開発が求められている。また、生体電気化学的手法は簡便な品質評価法となる可能性があるが、取得したデータの解析や解釈が難解である。
そこで、本研究では、生体電気化学的手法に基づく細胞の等価回路解析を簡易化し、細胞外液の電気抵抗値変化を簡易にモニタリングできる解析法を提示するとともに、流通青果物の物理損傷等の品質特性の数値化に適用する。

成果の内容・特徴

  • 本研究では、細胞組織の電気インピーダンスから得たナイキスト線図(Cole-Cole plot)の原点から円弧の頂点座標間の距離(LTO:Length of the coordinate at the top of the circular arc from the origin)が細胞外液の電気抵抗値変化を高精度に反映することを示す(図1)。通常の等価回路解析は特殊なソフトウェアが必要だが、簡易化法はエクセルで扱えるため、LTOは細胞外液の電気抵抗値変化を簡便に示すことが可能である簡易指標として活用できる。
  • 段ボールに梱包して落下させた後のニホンナシの損傷程度を、速やかに電気的指標(LTO)および熟練者による定性的な損傷スコアリング(1~5)により評価した結果、LTOは損傷スコアと同傾向で低下する(図2)。これは、細胞の破壊により、細胞内の電解質が細胞外に移動する現象を捉えていると推察される。よって、これまでヒトによる定性的評価で行われていた物理損傷程度の数値化が可能である。
  • ブドウ果実の中央部における軽度な損傷を数値化することで、軽度損傷が貯蔵後1~9日間における1日辺りにおける色差ΔEの変化速度(色彩劣化速度定数)を上昇させることがわかる(図3)。これにより、輸送後に傷ついた果実の棚もちのしやすさを、作目別、品種別に評価可能になると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 上記の品質特性が簡便に数値化できることにより、輸送・輸出中の青果物の「傷つきやすさ」や「いたみやすさ」の定量比較が可能となる。
  • 本技術は九沖スマートフードチェーンプロジェクトや、公設試との共同研究などにおいて、作目・品種別の易損性や棚もちの良さの調査およびエビデンスの取得等に展開中である。また、本手法が低コストで計測可能であるという利点を生かして、生産から流通・加工、小売りにおいて簡易に損傷を判断できる評価系や小型機器の開発を行っていく予定である。
  • 計測方法や解析方法は、作目や青果物の状態に応じて改良する必要があるので留意する。

具体的データ

図1 ニホンナシの細胞外液の電気抵抗値変化と簡易化した電気的指標(LTO)の関係,図2 ニホンナシの落下損傷に対する電気的指標とヒトによる定性的な損傷スコアリングの関係,図3 ブドウ粒をモデルとした軽度損傷値と色彩劣化速度定数の関係

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)、2018年度旗影会助成
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:渡邊高志
  • 発表論文等:
    • Watanabe et al. (2018) J. Food Bioproc. Tech. 11:2125-2129
    • Watanabe et al. (2019) J. Food Meas. Charact. 13:2130-2135
    • Lee, Watanabe (C.A.) et al. (2019) Postharvest Biol. Technol. 156:110947
    • Watanabe. T. (2020) Food Bioproc. Tech. 13:727-731