土壌診断のための土壌中の作物可給性農薬の迅速検出法

要約

水で抽出した土壌中農薬は、土壌種が異なっていても作物が吸収可能な画分(作物可給性農薬)として評価できる。さらに、酵素免疫測定(ELISA)法を用いることで、簡易・迅速に検出できる。

  • キーワード:農薬、水抽出、作物可給性、ELISA、土壌診断
  • 担当:農業環境変動研究センター・有害化学物質研究領域・有機化学物質ユニット
  • 代表連絡先:niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

土壌中の残留農薬濃度は、通常、アセトン等の有機溶媒による全量抽出で評価されている。しかし、土壌に残留する全ての農薬が作物体へ吸収されるわけではなく、土壌中の水へ溶出した農薬が作物体へ移行することが想定される。一方、農薬の吸着特性は土壌種によって異なるため、土壌中の水への溶出も土壌種によって異なると考えられる。したがって、全量抽出によって得られた土壌中の農薬濃度で作物の栽培前に土壌診断を行うと、作物に移行する農薬量を過大評価する可能性がある。そこで、土壌から水で抽出される農薬濃度(水抽出濃度)と作物中濃度との関係から作物への可給性を評価するとともに、水抽出で得られる作物可給性農薬を簡易・迅速に検出するため、酵素免疫測定(ELISA)法の適用可能性を検討する。

成果の内容・特徴

  • 我が国に分布する4種の農耕地土壌(黄色土、灰色低地土、黒ボク土1と黒ボク土2)に8種の農薬を添加し、コマツナを28日間生育させた結果、コマツナ中濃度とアセトンを用いた全量抽出で得られたは種時の土壌中の農薬濃度との間に相関関係は確認できない(図1左)。
  • コマツナ中濃度と水抽出で得られたは種時の土壌中の農薬濃度との間には良好な相関関係があり、水抽出で得られた農薬は作物可給性を示す(図1右)。
  • 使用量が多くかつELISAキットが市販されているジノテフラン、クロチアニジンおよびイミダクロプリドを21種の土壌に添加し、水抽出によって得られた農薬の濃度は、ELISAと機器分析(ここではHPLC-DAD)との間で良好な正の相関関係を示す(図2)。ELISAにより、水抽出によって得られた農薬を機器分析と同等に検出できる。
  • ELISA法を検出法として用いる場合、ケイソウ土カラム等を用いた精製が不要であることから、簡易・迅速に作物可給性農薬を検出できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 前作で使用された土壌中農薬の後作物残留を未然に防ぐための土壌診断法として活用が期待される。
  • 本研究では非解離性の農薬を対象としているため、土壌pHの大小で土壌への吸着程度が変化する解離性の農薬への適用性は不明である。
  • 本研究で供試していない土壌種については、事前に適用性を検討する必要がある。

具体的データ

図1 土壌中濃度とコマツナ中濃度の関係(テトラコナゾールの例)?図2 ELISAおよびHPLCで検出した水抽出液中クロチアニジン濃度の関係?図3 土壌中農薬を水抽出した場合の分析フロー例

その他

  • 予算区分:競争的資金(環境研究総合)
  • 研究期間:2013~2015年度
  • 研究担当者:清家伸康、渡邉栄喜、稲生圭哉、大谷卓、元木裕
  • 発表論文等:
    1)Motoki Y. et.al (2015) J. Pestic. Sci. 40(4):175-183
    2)Watanabe E. et.al (2016) Ecotox. Environ. Safety 132:288-294