ナス害虫の天敵ヒメハナカメムシ類の個体数には圃場周辺の景観要素が影響する

要約

ナス害虫の重要な土着天敵であるヒメハナカメムシ類(Orius spp.)の圃場内個体数には、圃場から半径200m以内の景観要素が強く影響する。天敵を活用した害虫管理を行う際には、周辺の環境を考慮する必要がある。

  • キーワード:露地ナス、害虫管理、周辺環境、地理情報システム、土着天敵
  • 担当:農業環境変動研究センター・生物多様性研究領域・生物多様性変動ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、圃場に生息する土着天敵の密度を高める保護管理(定着・温存)により、害虫の増加を抑制する技術の開発が進められている。一方、圃場内の土着天敵は、周辺の生息地から移入するため、天敵の密度を高めるためには、圃場内の管理だけでなく、周辺の環境(景観要素)の評価と利用も重要である。そこで、露地ナスの主要害虫であるアザミウマ類に対する有用天敵として知られるヒメハナカメムシ類を対象として、その圃場内の個体数に対する周辺の景観要素の影響を解析する手順を示す。

成果の内容・特徴

  • 奈良県の葛城市・五條市・奈良市・天理市の4地域における計13の露地ナス圃場(面積は5~12a)を調査地として選び(図1)、ヒメハナカメムシ類の成虫・幼虫 (図2)の個体数を、ナス花を対象としたはらい落とし法によって調査する。
  • 地理情報システムのソフトウェア(ArcGIS10など)を用いて、圃場の中心部から異なる半径の同心円を100mから1,000mの範囲で、100m刻みで描いて、各範囲に含まれる土地利用面積の割合(景観要素)と圃場内のヒメハナカメムシ類の個体数との関係を解析する。圃場周辺の土地利用の評価には、環境省の1/25,000植生図(第6・7回植生調査)を用い、土地利用として耕作地、森林、市街地に注目する。解析には圃場内のヒメハナカメムシ類の個体数を応答変数、各範囲に含まれる景観要素および農法(非選択的殺虫剤の使用回数)を説明変数とする一般化線形モデルを適用し、最小の赤池情報量規準(AIC)の値に基づき、どの説明変数が影響しているのかを特定する。
  • 圃場周囲の半径200m以内に存在する各景観要素の割合が、ヒメハナカメムシ類の個体数に影響を及ぼす(図3)。この範囲において、森林面積が小さく、耕作地や市街地面積が大きい圃場ほどヒメハナカメムシ類の個体数が多い(図4)。
  • この結果は、周辺の環境が圃場内のヒメハナカメムシ類の個体数に重要な役割を果たしており、周辺環境が異なる場合、得られる天敵保護効果が異なる可能性を示している。

成果の活用面・留意点

  • この知見は、対象とする圃場がヒメハナカメムシ類の活用に適しているかどうかを判断し、立地条件に応じた具体的な害虫管理法の提案に活用できる。
  • 本結果はナミヒメハナカメムシが優占する環境における成果である。ヒメハナカメムシ類は種によって生態が異なるため、優占種や種構成が違う地域では、本成果とは結果が異なる可能性がある。
  • フリーGISソフトウェアや公開されている土地利用情報を用いることで、解析のコストを抑えることができる。

具体的データ

図1 露地ナス圃場の調査地点?図2 ヒメハナカメムシ類の成虫?図3 ヒメハナカメムシ類の個体数に影響を及ぼす景観要素の空間範囲?図4 周囲200mの景観要素と圃場のヒメハナカメムシ類の個体数の関係

その他

  • 予算区分:委託プロ(収益力向上)
  • 研究期間:2012~2016年度
  • 研究担当者:馬場友希、田中幸一、竹中勲、國本佳範(奈良農研開セ)
  • 発表論文等:馬場ら(2016)応動昆、60(4):171-178