近年我が国で流行した豚流行性下痢ウイルスには病原性が異なる変異株がある

要約

豚流行性下痢ウイルスの変異株について、子豚への感染実験を通じて、臨床症状や感染動態などの特徴を調べた結果、本ウイルス株は主要な国内流行ウイルス株と比べて致死性は低く、また体内の病変分布に顕著な相違が見られる。

  • キーワード:豚流行性下痢、変異ウイルス、病原性、豚
  • 担当:動物衛生研究部門・ウイルス・疫学研究領域・発病制御ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2013年10月沖縄県における豚流行性下痢(PED)の発生以降、全国から集められたPEDウイルスに対して遺伝子解析を実施した結果、米国や韓国など世界各国で甚大な被害をもたらした北米型株、特徴的な挿入と欠失を有するINDEL型株に加えて、発生頻度は低いが一部のウイルス構造タンパク質遺伝子に大きな欠損を有する株が存在していることを明らかとした。そこで、本研究では、主要な国内流行株(北米型株)と病原性に関わるとされる外被タンパク質遺伝子に欠損を持つ変異株(S欠損型株)について、6日齢の子豚への感染実験を通じて、それぞれのウイルス感染による臨床症状や感染動態の違いを調べ、本変異株の病原性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 接種後2日目よりそれぞれのウイルスを接種した群はいずれも激しい水様性下痢を示す。その後、北米型株接種群は接種後4日目までに全ての個体が死亡するのに対して、S欠損型株接種群は接種後8日目までは下痢を継続的に示すが、その後回復し、全ての個体が25日間の観察期間を通じて生存する(表1)。
  • 接種後2日目の腸管におけるウイルス分布を両群間で定量・比較した結果、北米型株接種群は主に小腸上部から小腸下部でウイルスが顕著に検出されるのに対して、S欠損型株接種群は主に小腸下部から大腸においてウイルスが顕著に検出される(表2)。
  • 接種後2日目における両群間の小腸における組織傷害性を観察・比較した結果、北米型株接種群は多数のウイルス感染細胞を伴う重度の絨毛萎縮や脱落が認められるのに対して、S欠損型株接種群は軽度あるいは中程度の絨毛萎縮が認められる(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 臨床症状や病変分布に相違がある両者のゲノム配列を比較・解析することで、本ウイルスの病原性に関わる遺伝子領域を特定することができる。
  • S欠損型株のウイルス学的特徴を分子生物学的に理解することは、新規PEDワクチン開発の一助となる。

具体的データ

表1. 両接種群の生存に関して?表2. 接種後2日目の腸管におけるウイルスの分布に関して?図1. 小腸における組織傷害性の違いに関して

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016年度
  • 研究担当者:鈴木亨、芝原友幸、山口遼作(JA全農)、中出圭介(大分県)、山本健久、宮崎綾子、大橋誠一
  • 発表論文等:Suzuki T.et al. (2016) J. Gen. Virol. 97(8):1823-1828