国内の豚群における新たな多剤耐性病原性大腸菌系統の出現

要約

2000年代中頃より、大腸菌症および浮腫病罹患豚からの病原性大腸菌ST88系統の分離が急増している。本系統は高度な多剤耐性を有し、ほとんどの分離株がフルオロキノロン耐性であることが特徴的な集団である。

  • キーワード:豚由来病原性大腸菌、多剤耐性、フルオロキノロン耐性、ST88
  • 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・腸管病原菌ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

志賀毒素産生性大腸菌(STEC)や毒素原性大腸菌(ETEC)などの病原性大腸菌は、豚の下痢および浮腫病の原因となる重要な病原体である。その血清型は世界的に特定のO群に限られる傾向がみられるが、国内においては、特に近年の調査報告が少ないため豚から分離される病原性大腸菌の分離状況や性状の推移などについて不明な点が多い。また、畜産の現場では近年、豚から分離される病原性大腸菌の多剤耐性傾向が強く、抗菌剤の選択に苦慮する場面が多くなっている。そこで、1991年から2014年にかけて国内で下痢または浮腫病の豚から分離された病原性大腸菌967株について、O群血清型、遺伝学的系統、病原因子保有状況、薬剤感受性などを調査し、わが国で分離される豚由来病原性大腸菌の全体像を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 主要な血清型はO139、O149、O116、OSB9(4種類で全体の70.7%)であり、O139およびO149の分離は年々減少する傾向にある一方で、新たな血清型であるO116およびOSB9は最近10年間で主要血清型の一角を占めるに至っている(図1)。
  • O116およびOSB9は同一の遺伝学的系統(ST88)に属しており、志賀毒素およびエンテロトキシン両方の毒素産生遺伝子を保有する、すなわちSTECとETEC両方の特徴を持つ病原性大腸菌である。
  • ST88系統は試験した抗菌剤21種類のうち平均9.3剤に耐性(最多で15剤に耐性)であり、O139が属するST1系統(平均3.1剤に耐性)およびO149が属するST100系統(平均4.4剤に耐性)に比べて多剤耐性傾向が顕著である(図2)。
  • ST88系統は、ST1系統およびST100系統に比べて多くの抗菌剤でより高い耐性菌分布率を示す(図3)。特に、その効用から人の医療で重要なフルオロキノロン系抗菌剤(CPFX、LVFX、GFLX)に対する高い耐性率は、ST88系統の大きな特徴である。

成果の活用面・留意点

  • ST88系統の分離は現在のところ関東地方に多く、その分離頻度はすでに従来型の豚由来病原性大腸菌(ST1系統およびST100系統)に次ぐレベルに至っている。他の地域でも散発的な分離が増えており、今後の浸潤状況を注視する必要がある。
  • フルオロキノロン系抗菌剤の使用経験がない農場でもフルオロキノロン耐性のST88系統が分離されることから、菌の薬剤感受性を把握した上で抗菌剤の選択する必要がある。

具体的データ

図1 豚由来病原性大腸菌の血清型の推移?図2 耐性を示す抗菌剤数の比較?図3 フルオロキノロン系抗菌剤に対する耐性菌分布率の比較

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費、医療研究開発推進)
  • 研究期間:2012~2016年度
  • 研究担当者:楠本正博、彦田夕奈(愛媛家保)、藤井勇紀(茨城県北家保)、村田美聡(熊本家保)、三好洋嗣(佐賀中央家保)、小椋義俊(九大医)、後藤恭宏(九大医)、岩田剛敏、林哲也(九大医)、秋庭正人
  • 発表論文等:Kusumoto M. et al. (2016) J. Clin. Microbiol. 54(4):1074-1081