かび毒および内因性エンドトキシンに反応する新しい牛肝臓由来細胞株の樹立

要約

牛の肝臓から新たに樹立した2種類の肝類洞壁細胞株は、内因性エンドトキシン(LPS)およびフザリウム属かび毒であるデオキシニバレノールに応答し、炎症性サイトカイン遺伝子を発現する。

  • キーワード:牛、肝類洞壁細胞、LPS、デオキシニバレノール、炎症性サイトカイン
  • 担当:動物衛生研究部門・病態研究領域・中毒・毒性ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

牛の代謝病や安全性の研究には、動物福祉および経済性の観点から、細胞を用いた動物実験代替法の開発が望まれている。代謝の中心である肝臓には肝実質細胞に加えて、クッパー細胞、類洞内皮細胞、星細胞等の肝類洞壁細胞が存在し、互いに協調して異物に対する生体防御を行っている。反すう動物である牛では、馬、豚、犬等の単胃動物とは代謝が大きく異なることから、牛の肝臓機能を解析するには牛由来肝細胞を用いる必要がある。そこで、牛の肝臓から肝類洞壁細胞株を作出し、牛の穀物多給症候群など代謝病の原因の1つと考えられている内因性エンドトキシンであるLPSおよび家畜の飼料汚染頻度の高いフザリウム属かび毒であるデオキシニバレノール(DON)に対する応答を検討する。

成果の内容・特徴

  • 牛の肝臓から樹立した2種類の新規細胞株のうち、類洞内皮細胞株(B46細胞)は類洞内皮細胞のマーカー蛋白質を発現する。他方、筋線維芽細胞株(A26細胞)は星細胞や平滑筋細胞に近い性質を持つ筋線維芽細胞様株である(図1)。
  • これらの細胞株と既存の牛初代培養クッパー細胞を用いて、LPSとDON刺激に対する炎症性サイトカイン(IL-1α、IL-1β、IL-6およびTNF-α)の遺伝子発現量を比較すると、B46細胞はLPS刺激に対してTNF-αを誘導しないが、初代培養クッパー細胞と同程度にIL-1α、IL-1βおよびIL-6を誘導する。一方、DON刺激に対してはIL-1βは誘導されず、特徴的にIL-1αを誘導する(表1)。
  • A26細胞は初代培養クッパー細胞やB46細胞に比べて、LPSに対する炎症性サイトカインの反応性は低いが、DONに対してはIL-6の誘導が特徴的である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で樹立したB46およびA26細胞は内因性エンドトキシンやかび毒に対する炎症性サイトカイン反応性を有しており、牛の肝臓における病態機序の解明に有用である。
  • 肝臓での解毒代謝の中心である肝実質細胞とこれらの類洞壁細胞の複合培養により、牛の飼料由来有害物質の新しい動物実験代替法の開発が可能である。

具体的データ

図1 肝類洞を構成する細胞群と樹立した不死化細胞株B46細胞とA26細胞表1 クッパー細胞、B46細胞およびA26細胞のLPSまたはDON刺激に対する炎症性サイトカイン遺伝子発現量の比較

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2014~2016年度
  • 研究担当者:吉岡都、竹之内敬人、木谷裕、岡田洋之、山中典子
  • 発表論文等:Yoshioka M. et al. (2016) Cell Biol. Int. 40(12):1372-1379