弱毒生ワクチンの接種は高病原性PRRS罹患豚の臨床症状を軽減させる

要約

豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスの高病原性株に対し、我が国で市販されている従来型ウイルスを元にした弱毒生ワクチンを接種した豚では、感染豚の臨床症状が軽減され、ウイルスの体外への排出も抑えられる。

  • キーワード:豚繁殖・呼吸障害症候群、PRRS、ウイルス、豚、家畜
  • 担当:動物衛生研究部門・ウイルス・疫学研究領域・疾病防除基盤ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスは、豚に感染すると母豚に流死産、子豚に肺炎などの呼吸器障害を引き起こす。PRRSは我が国全域で発生の認められる重要な豚の疾病であり、1980年代後半に北米で分離された古典的な株を元に作られた弱毒生ワクチン一製品が広く使用されている。我が国では慢性疾患として認識されているPRRSだが、2006年に中国で出現した高病原性のPRRSウイルス(中国強毒株)は高致死率及び高罹患率を特徴とするウイルスであり、周辺国に急速な広がりを見せている。PRRSウイルスは遺伝学的に非常に多様であることから、我が国で使用されているワクチンの中国強毒株への効果は十分に検証されていない。そのような背景から、現行の市販弱毒生ワクチンを接種した豚に2010年にベトナムの流行地から分離された中国強毒株を実験的に感染させ、臨床症状に与える影響や体外に排出されるウイルス量を明らかにすることにより、防疫手段として市販の弱毒生ワクチンの有効性を検討する。

成果の内容・特徴

  • 4週齢の豚にワクチンを接種し、その4週後に中国強毒株を経鼻腔感染により攻撃すると(以下、接種群)、ワクチンを接種せずに攻撃した群(以下、非接種群)に比較して有意に臨床症状は軽減される(図1)。臨床症状の軽減以外にも、接種群は非接種群に比較し、高熱からの回復が有意に早く、また攻撃後の体重増加率も有意に高い。
  • 血液から検出されるウイルスの遺伝子量は、接種群において非接種群より有意差をもって速やかに減少し、それに伴って口腔液から検出される遺伝子量も速やかに減少する(図2)。
  • 非接種群の中国強毒株による攻撃14日後の感染豚の肺の外貌には、全体的に炎症が見られ(図3右上)、辺縁部は壊死と炎症に起因する硬化が認められる。一方、接種群の外貌は部分的な変色に止まり、病理組織学的にも中等度の間質性肺炎が認められ、非接種群の病理組織像に見られるような高度な炎症性細胞の浸潤と壊死像は認められない(図3)。

成果の活用面・留意点

弱毒生ワクチンを接種することによって中国強毒株の感染を防ぐことはできないが、体内で増殖したウイルスをより速く排除することによって全身状態の悪化を軽減し、体外へのウイルス排出量を減少させることができる。一方で、弱毒生ワクチンの接種によって中国強毒株感染豚の摘発が難しくなることも危惧される。

具体的データ

図1 攻撃後の臨床症状スコアの比較;図2 血液及び口腔液から検出されたウイルス遺伝子量の推移;図3 中国強毒株による攻撃14日後の肺の外貌(上)とその病理組織像(下)

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(資金提供型共同研究)
  • 研究期間:2012~2016年度
  • 研究担当者:井関博、川嶌健司、生澤充隆、芝原友幸、山川睦
  • 発表論文等:Iseki H. et al. (2017) J. Vet. Med. Sci. 79(4):765-773