生化学的性状検査でウレアーゼ試験陰性の豚胸膜肺炎菌が日本に存在する

要約

豚の胸膜肺炎の原因菌(豚胸膜肺炎菌)の同定の際の鍵となる性状の一つとして、ウレアーゼ産生性があるが、ウレアーゼ試験陰性の非典型的な豚胸膜肺炎菌が日本に存在する。豚の肺炎から分離される細菌を同定する際には、この非典型株の存在に留意する必要がある。

  • キーワード:豚胸膜肺炎菌、ウレアーゼ試験陰性、非典型株、同定、診断
  • 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・病原機能解析ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

養豚産業に多大な経済的被害を与える豚胸膜肺炎菌(App)は豚胸膜肺炎の原因菌である。本菌が産生するウレアーゼは生化学性状による本菌の同定の際の重要な鍵となる性状である。しかし、米国では死亡豚の典型的な肺炎病変からウレアーゼ試験陰性のAppが分離されている。一方、近年日本でも、ウレアーゼ陰性の性状を除き、全てAppに特徴的な生化学性状を示す菌株が死亡豚の肺病変から分離されている。ウレアーゼ試験陰性の非典型的Appが存在すれば、一般検査室で日常よく使用されている生化学性状検査による同定及び豚胸膜肺炎の診断の妨げとなる。
本研究の目的は、ウレアーゼ試験陰性のAppが野外に存在するかを明らかにすることである。

成果の内容・特徴

  • UN16株と名づけた肺病変から分離された菌株は、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD)要求性、溶血性を示し、マッコンキー寒天培地での発育は陰性である。これらの生物学的性状はApp生物型1に特徴的な性状である(図)。
  • 20の生化学性状を検査できる市販の診断用キット(IDテスト・HN20ラピッド)を用いた検査では、UN16株は。ウレアーゼ試験陰性の性状を除き、すべてAppに特徴的な性状を示す(図)。
  • UN16株の16S rRNA遺伝子の塩基配列は、App血清型2の16S rRNA遺伝子と100%の相同性を示す。したがって、生化学性状検査では同定できないUN16株は、一部の検査機関でしか実施できない遺伝学的検査法を用いれば、Appと同定される(図)。
  • UN16株の血清型は、日本で最も分離頻度の高い血清型2である。

成果の活用面・留意点

  • 教科書や病性鑑定マニュアル等には豚胸膜肺炎菌はウレアーゼ試験陽性であり、本性状はApp同定の際の鍵となる一つの性状であると記載されている。しかし、米国だけでなく日本にもUN16株のようなウレアーゼ試験陰性の非典型的な豚胸膜肺炎菌(血清型2)が存在するため、生化学性状で同定を行う場合は、注意が必要である。
  • 日本におけるウレアーゼ試験陰性のAppの浸潤度を調査する必要がある。

具体的データ

図 生物学的・生化学性状検査だけでは同定できないウレアーゼ試験陰性の非典型的なAppが日本には存在する。

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017年度
  • 研究担当者:伊藤博哉、高橋沙耶香(全農・家衛研)、浅井鉄夫(岐阜大)、田村豊(酪農学園大)、山本孝史(元東京農大)
  • 発表論文等:et(2018)30(1):172-174