ホーネットシルクを原料にしたヘルスケア製品開発

要約

スズメバチの幼虫が蛹になる前に作る繭から抽出したホーネットシルク"Hornet silk"を化粧品成分の国際名称としてINCIに登録することで、この水溶液を爪の創傷修復剤として製品化する道を拓く。

  • キーワード:新産業創出、シルク新素材、未知・未利用シルク
  • 担当:生物機能利用研究部門・新産業開拓研究領域・新素材開発ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-6213
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

本研究は、シルクの新たな用途を見出して、新産業の創出を目指したものである。これまでにホーネットシルク(スズメバチの幼虫が蛹になる前に作る繭から抽出したシルク)がヘルスケア製品の原料として配合された実績はなく、化粧品原料としては未知・未利用の天然素材である。通常、化粧品は複数の成分から構成され、どのような成分を配合したかを成分表に明記して販売する。化粧品に配合し成分表に明記するためには、あらかじめ、その成分を国際表示名称として登録しておく必要がある。INCI(International Nomenclature of Cosmetic Ingredients)とは化粧品原料の国際命名法のことであり、そのルールに基づいて命名された成分名をINCI名と呼ぶ。INCI名は化粧品成分の国際表示として通用する。そのため、"ホーネットシルク"をINCI名として登録し、化粧品原料として企業が使いやすい状況を整えることを目指し、ホーネットシルクを天然状態から単離・精製する方法を確立し、成分・構造分析を行う。さらに、ホーネットシルクは、爪の主成分であるケラチンが形成するタンパクの立体構造と同様の構造を形成することを明らかにし、爪の修復材としての開発を行なう。

成果の内容・特徴

  • ホーネットシルクに関しては、抽出・精製する方法(特許登録第5234551号)、および安定な水溶液を作製する方法(国際出願WO2014/192822)が農研機構オリジナルの技術として確立されており、原料使用のための基盤技術は整っている。今回は、こうした技術で抽出・精製された"Hornet silk"(ホーネットシルク)を化粧品原料として国際表示するための国際登録を行う。登録作業は、INCIへの申請をアート(株)が行い、農研機構は申請手続きの支援を行う。
  • "Hornet silk"(ホーネットシルク)がどのような特徴のタンパク質であるかを知ることは、化粧品原料としての適用を知る上で重要である。すでに、我々は、ホーネットシルクがコイルドコイル構造を形成している可能性が高いことを明らかにしている。しかし、コイルドコイル構造が形成していることを実証すること、および、形成形態の詳細を知るためには、まだ多くの実験データが必要である。今回は、ホーネットシルクのゲルフィルム(特許第5229769号)を延伸することで生じる構造変化を解析することにより、分子鎖中央部のコイルドコイル構造形成、および両末端の非晶(ランダムコイル)構造の存在を明らかにする(図1)。
  • 得られた構造情報から、ホーネットシルクはケラチンと類似の分子構造を有していることが示唆される。そこでケラチン部位創傷の修復材としての利用を考え、爪の修復液として製品化を目指すアート(株)に技術移転を行う(図2)。製造に必要な技術の基本特許(国際出願WO2014/192822)は農研機構発単独で有している。

普及のための参考情報

  • 普及対象:化粧品メーカー、医薬品メーカー
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国・全世界

具体的データ

図1ホーネットシルクゲルフィルムの延伸過程における構造変化;図2爪の創傷修復剤として開発されたホーネットシルク配合の水溶液

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011?2015年度
  • 研究担当者:亀田恒德、吉岡太陽
  • 発表論文等:INCI, ID: 31280, Trade Name: Hornet Silk ("Hornet Silk"が化粧品成分の国際的表示名称(INCI)として国際命名法委員会より登録を受けた)