自殖性作物の長期改良に島モデル型ゲノミックセレクションが活用できる

要約

自殖性作物の育種にゲノミックセレクションに基づく循環選抜を取り入れることで、遺伝的改良の効果が高まることが期待される。また、育種集団を分集団化して島モデルを適用することで、より長期的な遺伝的改良が期待出来る。

  • キーワード:自殖性作物、ゲノミックセレクション、島モデル、個体選抜、循環選抜
  • 担当:次世代作物開発研究センター・基盤研究領域・情報解析ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7135
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

通常の自殖性作物の育種では、交配後は自殖を繰返すため、ゲノムは急速に固定が進む。固定の進んだ集団の系統選抜は選抜精度が高い反面、他殖性作物の個体間相互交配に比べて新しい遺伝子型の組合せが集団の中で生じにくく、比較的大きなゲノム断片の組合せの作出・選抜に終始し、有用な遺伝子型の組み合わせを持つ個体の選抜を困難にしている。本研究は、自殖性作物の循環選抜を想定し、日本の水稲品種における、ゲノムワイドマーカー情報を用いた異なる選抜手法による遺伝的改良の程度をシミュレーションにより比較し、ゲノミックセレクションを用いて個体選抜の精度を高めながら長期的な遺伝的改良を実現する手法の提案を目指す。特に遺伝的多様性を保ちながら選抜を行うために島モデル型の循環選抜をゲノミックセレクションで行うことを提案し、その効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 2品種間交配由来の集団を想定した場合、そのF6集団から得られる優良個体の遺伝的能力よりも、F6集団に対してゲノミックセレクションを用いて循環選抜を行って得られる優良個体の遺伝的能力の方が高い(図1)。これは循環選抜で新しい遺伝子型の組合せを集団内に作出する効果に起因する(図2)。
  • マーカー遺伝子型に基づく遺伝的な近さから水稲6品種を選び、それらの品種からコシヒカリを片親とした6組合せのF6集団を想定した。その場合、2品種由来の個々の集団における循環選抜よりも、7品種由来の統合した集団における循環選抜の方が、得られる遺伝的能力が高い(図3)。このことは、育種集団内により多くの遺伝子型の組合せを作り出すことによる効果と考察される。
  • 1つの育種集団をいくつかに分割して分集団化し、それぞれの分集団の中で選抜と交配を繰り返しながら、毎世代1個体を別の分集団と入れ替える手法を提案する。この手法を島モデル型ゲノミックセレクション(図4)とここでは呼ぶ。島モデル型ゲノミックセレクションで得られる優良個体の遺伝的能力は、選抜初期は通常の循環選抜に劣るが、頭打ちになることなく長期間にわたり遺伝的改良が進み、選抜後期で高い改良効果が期待できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 今後の自殖性作物の育種において、ゲノミックセレクションに基づく循環選抜を取り入れる際の指針となる。
  • 育種初期集団の表現型値とマーカー遺伝子型情報を用いてゲノミックセレクション予測モデルを構築した後、モデルの更新を行わなくても数世代の改良を維持できる。
  • 島モデルにおける分集団を育種の各事業所と考え、大規模な島モデル型ゲノミックセレクションの国内での実施に活用できる。
  • 選抜を行う期間と望まれる改良効果に応じて、通常の循環選抜と島モデル型選抜を使い分ける必要がある。

具体的データ

図1 2品種由来の自殖集団と循環選抜?図2 集団育種法と循環選抜における連鎖ブロック?図3 2または7品種由来の通常の循環選抜と島モデルを用いた循環選抜?図4 島モデル型ゲノミックセレクション

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014~2016年度
  • 研究担当者:矢部志央理、山崎将紀(神戸大農)、江花薫子、林武司、岩田洋佳(東京大農)
  • 発表論文等:Yabe S. et al. (2016) PLoS ONE 11(4): e0153945. doi:10.1371/journal.pone.0153945