β-グルカンを多く含む大麦粉用二条裸麦品種「ビューファイバー」と「ワキシーファイバー」

要約

両品種はlys5.hを有し、「ユメサキボシ」より整粒重が低く穀粒がしわ粒で外観品質が劣るが、食物繊維のβ-グルカンを従来品種の2倍以上含む。これらの大麦粉を利用してうるち性の「ビューファイバー」は菓子等、もち性の「ワキシーファイバー」は麺等に加工・販売されている。

  • キーワード:二条ハダカムギ、β-グルカン、食物繊維、シリアル、大麦粉
  • 担当:次世代作物開発研究センター・麦研究領域・小麦・大麦育種ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8862
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

大麦穀粒には、他の穀物よりも多くの食物繊維が含まれており、特に胚乳細胞壁多糖のβ-グルカンは、血糖値上昇抑制、内臓脂肪面積低減といった健康機能性があることが報告されている。このβ-グルカンを多く含む品種をシリアルや、大麦粉として加工利用すれば、粒だけでなく既存の小麦粉製品に少量を混合するだけで外観や食感・食味を損ねることなく機能性成分を付加できるため、極めて有用で粉体としての利用価値が高まる。そこで大麦の新規需要開拓のため、β-グルカンを既存品種よりも多く含む品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 両品種ともに「Riso M86(Carlsberg IIの突然変異系統で、澱粉合成系の変異遺伝子lys5.hを有し高β-グルカン含量)」の特性を有する二条裸麦で、穀粒はしわ状で、外観品質が劣るが、「ユメサキボシ」と比べて両品種ともに食物繊維のβ-グルカンを2倍以上含む(図1)。
  • 「ビューファイバー」はうるち性、「ワキシーファイバー」はもち性である。
  • 両品種の生育特性はほぼ同様で、秋播性程度Iのやや早生種で「ユメサキボシ」よりも出穂期が1日程度、成熟期が2日程度遅い(表1)。
  • オオムギ縞萎縮ウイルスI・II・III型に"極強"である(表1)。
  • うどんこ病抵抗性は「極強」、赤かび病抵抗性は"やや強"である(表1)。
  • 強稈で耐倒伏性は強い。「ユメサキボシ」と比べ穂長はやや長く、穂数がやや少ない(表1)。
  • 整粒歩合(>1.8mm、1.8mmの篩い目で残った粒の全体に占める比率)は90%以上である(表1)が、二条裸麦で一般的な篩(>2.2mm)では低い。
  • 搗精時間は「ユメサキボシ」と比べて非常に長い(表1)。
  • これらの品種はシリアルだけでなく、大麦粉として「ビューファイバー」では菓子(写真1)、「ワキシーファイバー」では麺(写真2)として加工・販売されている。

普及のための参考情報

  • 普及対象:生産者、精麦および菓子加工業者、消費者
  • 普及予定地域・普及予定面積(栃木県および愛知県)
  • 「ビューファイバー」は利用許諾件数4件(種子販売会社含む)、「ワキシーファイバー」は1件。両品種は12道県・延べ約30生産者で合計20ha以上に達する。栃木県足利市では耕作放棄地解消として「ビューファイバー」が利用され、数年以内に40ha規模(生産100t)を目指している。両品種ともに産地品種銘柄申請予定である。
  • その他:両品種の利用拡大のため20回以上の展示会に対応し、業者とも連携して消費者への普及活動を継続的に実施した。両品種の特徴や機能性成分β-グルカンを訴求する30件以上のセミナーを実施した。両品種を用いた研究成果のPR用パンフレットは農研機構ウエブサイトhttp://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/kind-pamph/083046.htmlからダウンロードできる。なお両品種ともに関東以西の温暖地が栽培適地であるが、出芽不良になりやすいので適期またはやや早めに播種する。播種が遅れる場合は播種を増やして出芽数を確保する。

具体的データ

表1 特性概要,図1 β-グルカン含量,写真1 「ビューファイバー」の粉を用いた市販品,写真2 「ワキシーファイバー」を用いた市販品

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(業務・加工用)、その他外部資金(24補正「機能性食品プロ」)
  • 研究期間:2000~2018年度
  • 研究担当者:柳澤貴司、吉岡藤治、塔野岡卓司、青木恵美子、平将人、河田尚之、吉田めぐみ
  • 発表論文等:
    • 吉岡ら「ビューファイバー」品種登録第22118号(2012年12月28日)
    • 柳澤ら「ワキシーファイバー」品種登録第26578号(2018年2月9日)
    • 塔野岡ら(2011)育種学研究、13:74-79