ハダニの土着天敵であるハダニクロヒメテントウは日本国内に広く分布している

要約

ハダニ類の有力土着天敵ダニヒメテントウ類のうち、ハダニクロヒメテントウは、北海道から九州にかけて広く分布する優占種である。一方、従来優占種とされたキアシクロヒメテントウは採集記録が静岡県以西に限られる。

  • キーワード:ハダニクロヒメテントウ、キアシクロヒメテントウ、ダニヒメテントウ類、ハダニ、土着天敵
  • 担当:果樹茶業研究部門・リンゴ研究領域・リンゴ病害虫ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ダニヒメテントウ類は、難防除害虫ハダニ類に対する捕食量の大きい有力天敵として世界的に広く知られている。従来、日本国内の農生態系で優占する種はキアシクロヒメテントウStethorus japonicus H. Kamiyaとされてきたが、近年、果樹園および周辺植生に発生するダニヒメテントウ類を精査したところ、長らく国内に生息しないとされてきたハダニクロヒメテントウS. pusillus (Herbst) の発生が再確認され、しかもキアシクロヒメテントウと混発する事例も観察された。そのため、過去の研究のなかでキアシクロヒメテントウとみなされてきたものの中には2 種が混同されてきた可能性が考えられ、土着天敵によるハダニ防除の研究を推進していくうえで、両種の生息状況をあらためて把握する必要がある。そこで、従来キアシクロヒメテントウが生息するとされてきた北海道から九州における両種の発生状況を解明する。

成果の内容・特徴

  • 2008~2016年に北海道から鹿児島県にかけての39都道府県97地点において果樹類や周辺植生で採集したダニヒメテントウ類733個体のうち、ハダニクロヒメテントウが約75%を占め(図1)、北海道から熊本県にかけての広い地域で観察される(図2)。
  • 採集された個体のうち、従来北海道から九州にかけて優占するとされてきたキアシクロヒメテントウが占める割合は20%未満と少なく(図1)、採集された地域は静岡県以西の数県に限られている(図3)。

成果の活用面・留意点

  • これら2種は同時に採集される場合もあるが、成虫の頭部の色(図1)や雄交尾器、蛹や4齢(終齢)幼虫の模様、および卵色で識別可能である(果樹研究所2012年度研究成果情報)。
  • 本調査ではこれら2種に加えて、エグリクロヒメテントウ S. emarginatus Miyatake と、体長が約1.0mm前後と小さく雄交尾器の形状が他種と明瞭に異なる国内未記録種のStethorus sp. がわずかに採集されている。また、北海道では、本調査では採集されなかったが、ナガクロヒメテントウS. yezoensis Miyatake の生息が記録されている。
  • 南西諸島に生息するダニヒメテントウ類としてはツツイクロヒメテントウS. aptus tsutsuii Nakane et Arakiが記録されているが、他種の発生状況は未解明である。

具体的データ

図1 北海道から鹿児島県にかけての果樹類や周辺植生で採集したダニヒメテントウ類の種構成(2008~2016年)?図2 各県におけるハダニクロヒメテントウの採集状況(2008~2016年)?図3 各県におけるキアシクロヒメテントウの採集状況(2008~2016年)

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(収益力向上)
  • 研究期間:2008~2016年度
  • 研究担当者:岸本英成、北野峻伸(帝装化成)
  • 発表論文等:岸本・北野(2017)応動昆、印刷中